構造計算は安全なのか

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下の図は、東京・山手線内で売り出されていた2階建て新築戸建て住宅。1階と同規模の地下室もあり、土地、建物込みで1億円を超えています。2階がリビングやダイニング。そのためか中庭を囲むように3面総ガラス面です。
1億円も出すのだから、当たり障りのないデザインの住宅では見栄えがしません。床に大理石を張り、中庭を見渡す3面ガラス張り。さらに駐車場を2台分確保する関係から、なんと1.8m以上も2階だけが跳ねだしています。
まるで鉄筋コンクリート造の建物のようですが、木造、軸組工法です。

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無理に無理を重ねた計画

でも、構造的には無理に無理を重ねています。 赤線が耐力壁なのですが、中庭に面した面は一切壁が無く、大きな地震時にはその部分が変形しやすい構造上の弱点を抱えています。また、1.8mも張り出している2階は大地震では大きく上下に振られるでしょう。その壁の先端に2階としての耐力壁が二重壁で設けられているものの、その力はどこにも伝達できません。

計算はOKでも・・。

実は構造計算というのは、ある「大前提」の上に成り立っています。
それは、「床は変形しないという前提」です。
耐力壁のバランスをチェックする計算式に「偏芯率」というものがありますが、下の図の3つとも、計算結果はほとんど同じで、計算をすれば全て折り紙付きの合格点がつきます。
しかし、ボール紙で実験すればわかりますが、C3図のように大きな大きな中庭を取り、細長い廊下だけの間取りでは、地震を受ければ中庭部分を境として建物は大きく変形してしまいます。
でも構造計算だけを進めていれば、全て合格点となってしまいます。
その理由は、そもそもこんな変形の建物自体を想定していませんし、床は変形しないという前提があるからです。(構造計算書には、必ず最初のページに、床は剛の床とするというお題目が書かれています)

本来の間取りは・・

2X4工法のルールではこのような場合、区画を3つのブロックにわけ、ブロックの外角線の長さの1/4は、壁を作りなさいと言うルールがあります。そうすると下の図のような間取りになり、Aの線上にその長さの1/4以上の壁を作らなければなりません。そして、本来はBの窓部分も幅の1/4程度の壁が必要なのです。
つまり3つのブロックごとの四角い箱が出来あがり、そのブロックごとの4つの面すべてに一定の壁が作られています。この3つ別々に独立した箱があるからこそ、地震が来ても変形しない家を作ることが出来るのです。(時々、このルールを全く知らないで設計している2X4工法の会社があります)

構造計算は完全なのか?

見栄えを追求しなければ売りにくい。売値が1億円にもなれば、頑丈さだけではとても売れません。売るために、客を引きつけるためにデザイン性が優先され、構造設計者は、その尻ぬぐいをしている場合が多く、今回も典型的なその事例です。

構造設計者の一面

私が知る限り、よほど計算不可能な間取りでもない限り、構造設計者がノー(出来ません)という場面はほとんど知りません。デザイナー、プランナーの無理難題の変則的な間取りを、構造的に成り立つように四苦八苦している場面の方も結構多いでしょう。
「こんなプランでは地震時に大きく変形してしまって危険ですよ」
「そんな芸のないブランでは客が喜ばないんだ。構造的にどうにかなるように考えろ」
だいたいこのパターンが多いでしょうね。あるいは、
「ここに壁をもう少し増やせませんか」
「構造的に考えてよ~。融通の利かない構造設計者だなぁ」
そこは構造設計者も人の子。むしろ営業的に強い人は少ないですから、わがままな設計者やプランナー、売り主の無理難題を引き受けながら、少し「前提を忘れて」「計算のつじつま合わせ」でお茶を濁す建物もたまにはあるでしょうねぇ。

構造計算とは、後追いの立場

そもそも構造計算は、設計の一番最後に行われます。 一番最初にしなければならないのは「構造計画」というもので、簡単に言えば「間取り」そのものです。(窓や壁の配置) その間取りが健全であれば、構造計算も健全ですが、間取りに無理があると、つじつま合わせに構造計算が使われます。その構造計画に本来の構造設計者が参加できないところに、このような矛盾が生じるのです。

構造計算がされていたから安全とは必ずしもいえない。

そんな住宅例のお話で・し・た。

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