前回の最後に、途中で建築会社が倒産したらどうなるのか。
いくつかのシミュレーションをご紹介しましたが、建築会社が倒産すると、工事は止まり、すでに支払っている工事代金は一銭もかえってきません。
今から家を建てようとする人が勤めている会社が倒産をしてしまう可能性は、極めて低いでしょうし、今勤めている会社が倒産するかも知れない、と思いつつ家を買う人はいませんね。 つまり、「倒産」は必ずもらい火です。 そして、建築会社が倒産して[…]
倒産リスクの最大のものはこのリスクなのです。そして、「倒産の被害を最小限にする方法」で、唯一確実な方法は、『工事費の支払いを常に過払いが起こらないようにする』ことしかありません。
その前に「信用取引」という言葉や仕組みを知っておく必要があります。
信用取引と倒産の関係
「信用取引」は、経済活動の根幹をなす大切な制度です。
「信用取引」とは、「あなたを信用するから、支払いは後回しでいい」という制度ですね。
そして、スーパーの買い物は、「同時取引」ですし、私たちの日常生活のほとんどは「同時決済」です。
しかし、企業は「同時取引」などほとんどありません。「信用取引」を最大限に利用しますし、また、利用しなければ企業活動の継続はあり得ません。
信用取引の実際 締め・支払い
全ての会社は、締め、支払日というものを設けています。
たとえば当月末日に締めた支払いは、翌月末日に支払うといった方法です。
一つの例で説明をしてみましょう。
ところが、建築会社の支払いは、仮に「末締めの末払い」という信用取引(取引条件)をしているとすると、実際には1月末に工事をした下請けから請求があり、実際に支払うのは、2月末なのです。それは、月がまたがり、2ヶ月とか3ヶ月になっても同じです。
この仕組みが「信用取引」なのです。
企業同士で取引をしていて、倒産がなぜ困るのか。それは今まで仕事をした代金をもらっていないのに、相手が倒産し、その代金が回収出来なくなるからですね。
つまり、上の例で言えば、2月始めに建築業者が倒産すれば、下請けの業者はリフォーム工事でやった仕事の代金すべてが回収出来ないのです。
倒産企業に前触れはあるか
企業が倒産するときには、必ず予兆があります。
この予兆は継続的に取引をして、その企業に出入りをしていればある程度つかむことは出来ますが、一般の建築主、あるいは限られた取引だけの付き合いで、その予兆をつかむことは不可能です。特に一般建築主が、この予兆を確実に察知する方法はほとんどないと考えた方が良いでしょうね。
唯一、建築主でも分かる兆候は、下の「売上面」で書いているように、契約や着手金を急いだりしますが、相手も追い詰められるほど芝居もうまくなりますから、資金繰りに困っているのか、単に強引な相手なのかを知る術は、よほどこのような場面の社会経験が無ければ見破ることは出来ません。同様に、大幅な値引きや安値受注もそれが一時的なものなのか、倒産直前のあがきなのかを見破ることは難しいでしょう。
倒産する寸前の企業は、「信用取引」を維持しようと一生懸命「金策」に走り回ります。以下は、代表的な会社延命策の一例です。
滞納 | ・税金、社会保険料等の租税公課の滞納 ・家賃の滞納(一般的には立ち退きを迫られない2.3ヶ月程度) |
売上面 | 派手な広告宣伝や値引き販売による着手金確保 ・工事着手金が欲しいため、工事契約を急ぐ。 ・ 赤字になるのは分かっていても、明日の支払いのために安値で受注する ・契約すれば、上棟すれば一日でも早く集金を計る |
支払面 | ・給与遅配 ・取引業者への支払い猶予、値引き ・手形の繰延(手形ジャンプ) |
不健全金融 | ・融通手形 ・消費者金融、町金融(ヤミ金融) |
倒産という事態は、一瞬に訪れますが、倒産への道のりは大変長いものです。
ごくごく一般的には、会社が再建不能な状態の債務超過に陥っていても、上記の金策や借入金の繰延などよって、企業は3年近く生きながらえ、そして終焉の時を迎えます。この間は、余命幾ばくと宣告された命を本人が否定し、延命の努力を営々と行い、そして最後は、宣告された時よりももっとひどい病となって急死する状態に似ています。
最初に述べたとおり、倒産のリスクを最小限にする最大の方法は、あまりに相手への支払いが過払いになっていないか・・という思案なのです。