『惚れ惚れする基礎!』『仲介屋との闘い!』『最高の住み心地です。』は、全て同じ建築主さんです。
惚れ惚れする基礎(2010.06.11)
私が今の仕事を始めて約9年になります(2010年当時)。
その中で毎年必ず起こっているもの・・・。
それが「基礎のやり変え」です。(注:最近は減ってきています)
理由はいろいろなのですが、要は、施工者のミスから生じた不具合が、いくつも積み重なり、基礎をやり変えざるを得なくなるケースが毎年1~2件は必ず発生しています。
といっても、これらのほとんどが、建築主が強硬にあるいはクレーマー的に言ったから、業者が渋々「基礎をやり変えた」というのでありません。
そのほとんどがどちらかというと、自主的に業者の方から『今の基礎を壊して、一からやり直します』といってやり変えるケースがほとんどなのです。
そしてこれからご案内するのは、建築主自ら『土足で上がるのがもったいないぐらいの、惚れ惚れする基礎』と唸らせてしまったある事件です。
下の写真は、その基礎をやり変える前の写真です。
①から③の基礎そのものは、ごくごく普通の仕上がりです。ただ、④基礎から大きく土台がはみ出しています。⑤土台を大きくくりぬしてアンカーボルトを止め、しかもボルトが出ずに中途半端な長さで座金がつれられています。⑥本来土台継ぎ手は、土台の上木側にアンカーボルトが必要なのですが、下木側にアンカーボルトがあります。
しかも、その後上棟まで終わっていました。
実は、この程度・・といっても、そもそも基礎は普通の出来ばえですし、土台とアンカーボルトの関係に問題ではありますが、どうにか是正策を考えて、そのまま工事続行が一般的なパタンではないかと思います。
でも、業者は、あることを理由に、上棟しているすべての木材を撤去し、かつ、基礎も解体して一から工事をやり直させてほしいという話になりました。
このサイトの「住宅事件簿」の「ネバーギブアップ」という記事を紹介していますが、そうなった理由は、「ネバーギブアップ」同様に、根気強い建築主のある態度が、業者をしてそう言わせたのです。
これからご紹介する事件は、自分のため、子供達のため、いろいろなハウスメーカーを当たった末に、ログハウスを建てたいと考えたある建築主と、無責任で破廉恥な建築設計事務所との2年半にわたる建物完成までの記録です。 建築主がまとめられた経緯 ([…]
惚れ惚れする基礎-最初の騒動。(2010.06.14)
いよいよ基礎工事に着工するようになったAさん。
このAさん。「工事を入る前には基礎伏図を渡します」という説明を受けていました。
しかし、着工前には完成すると言われていた基礎伏図が施工業者から送られてきません。催促するたびに、最後には、完成し次第渡すと言われました。そうこうするうちに基礎工事がはじまってしまいました。
再度、基礎伏図はどうなったか聞いたところ、「つくらない」とのこと。プレカット図に直接書き込んだものを基礎伏図の代わりに使う」という返事。
その場では、「そうですか。それでは、その書き込んだプレカット図をください」と施工業者にお願いしました。
しかし、どうも腑に落ちません。
- 基礎伏図は着工前に完成する。完成し次第渡す。という約束が反故にされていること。
- 百歩譲ってその「書き込んだプレカット図」を基礎伏図の代わりにもらったとして、そういうもので基礎を施工するのはあり得ることなのでしょうか?
- もし、あり得るとしたら、どういうことが記載されていれば安心なのでしょうか?
といったニュアンスのことを通知しておくべきでしょうね。なぜなら、「ウソは信用取引の根幹を否定する不誠実な行為」ですね。
そのため、信用出来ないと言う意思表示をはっきりとしましょう。
その後、設計者が書く。工務店は普通は書いていない・・といった応答の後、設計者が基礎伏図を改めて書くことになりました。
実は、この最初に起こった小さなトラブルに対して、建築主Aさんの取った態度が「惚れ惚れする基礎」になったもっとも大事なポイントだったのです。
それは、きちんと問題が発生したときに「なぜ、最初に作ると言っていたものが出来ないのですか」という態度を示したこと。「ウソをつかないでください」と言うこともはっきり言ったことなのです。
逆に建築主にとって一番悪い姿勢は、話を曖昧なまま、自分だけが納得してしまい、この業界はこういうものだとあきらめ、あるいは、変に波風をたてるのを避けようとする態度は、結局自分の首を絞め、相手有利にしか働かないのです。
惚れ惚れする基礎-続き(2010.06.21)
これ以外にも耐震金物の図示など、不足していた図面も一緒に作ってもらうように話も進み、不明な部分も詳しく説明してもらうなど、対応も非常に良くなっていきました。
おっちょこちょいで軽はずみな態度を取っていた営業マンも「あんた信用できないよ」とまで言われるとショックでしょうねぇ。後は態度で信頼をとりもどすしかないですね。対応が激変したそうです。
事件2-アンカーボルトの記載漏れ
そして、『基礎伏図があがってきました!!』
(ほんとにもう、やればできるじゃん!って感じです。いろんな対応も無茶苦茶はやくなりました)」というAさんからのメールが届き、できあがってきた「基礎伏図」を見ると3カ所ものアンカーボルトの記載漏れ。
まぁ。そもそもこの設計事務所、いわゆる代願設計事務所のようなもので、基礎伏図なんか書いたことがないものですから、漏れるんですねぇ。
『とほほ・・・。』期待していたのに~。・・・とはAさんの嘆き。
なぜ、こんな事になるのか。
もともとこの施工会社では、「設計者にアンカーボルトの位置を書いてもらっても間違うし、現場を知らないから、いつも自分たちはプレカット図を見ながら基礎をつくり、アンカーボルトなども入れているのです」という返事なのです。
そして、最初に「基礎伏図」を書きます~ぅ。」といった仲介のおっちょこちょいな営業マンの失言が、書いたことのない基礎伏図を設計者に書かせたことで、また、間違いが発覚してしまったのです。
いやいや、施工会社の現場監督も忘れっぽい、間違うのオンパレード。
いい加減といい加減が、支えあって、なんとなく建物が出来ていくんでしょうかねぇ。
すべてを安心して、おまかせ出来る日は来なそうですね。
とAさんのさらなる嘆きが伝わってきます。
たしかに、このようなケースは非常に多いです。
設計者は間取りを決めて、申請をするまで。後は施工サイドですべてを取り仕切る。だから設計者といっても現場を知らない人が非常に多い。
わたしとAさんとこういう会話がありました。
と、期待、落胆と揺れ動く気持ちを仕切直して、とりあえず基礎伏図をキチンと直してもらって工事着工です。
おっ、とっ、と!
そう簡単に「惚れ惚れする基礎」が出来るわけではありませんよ。
まだまだ、トラブルが続きます。
惚れ惚れする基礎-続くトラブル(2010.6.22)
とりあえず基礎伏図を修正して基礎工事をスタートしたAさん。
第三の事件-ホールダウン用ボルトの入れ忘れ
基礎の配筋工事も、コンクリート打設もまずまず問題なく終わり、やれやれと思ったつかの間、基礎のホールダウン用ボルトを調べてみると1本足りない。
しかし、Aさんも少しトラブル対応に慣れてきました。
大分慣れてきたので、発見したときは、もう怒りも湧かず、あきれて、ちょっと笑っちゃいました。明日、施工会社が自主的にやる基礎完了点検なので、彼らが発見できるか、ちょっと意地悪して黙っていようかと思います。
さて、監理料払う価値あるのかな?
と思えるまで余裕が出てきました。
そして、自主検査の終わった現場監督の返事は
「さっき確認しました、大丈夫です。いい仕上がりですねぇ」
と、ホールダウンの入れ忘れなどどこ吹く風の調子の良い返事だったそうです。
そしてAさんの出した結論は、
はっきりしました。彼らは、管理なんてものしてません。売主も売主なら、施工会社も施工会社。
結局、不足していたホールダウン用のボルトは、土台を据えた後でケミカルアンカーで追加すると言うことに落ち着きました。
第四の事件-大きく掘られた土台
そして続けて上棟準備のために土台を据え付けていきましたが、これがまたどうしよう・・という土台だったのです。写真を見ればわかりますね。どこまでが良くて、どこまでが駄目だとはなかなか線引きの難しい話ではあるのですが、土台が大きく掘られてナットが締められています。場所によってはボルトがナットに十分に回らず、ボトルの山がナットからっまたく出ていないところもあります。
このようになったのは、最近多い剛床という仕様で、土台の上に直接厚み24~28mmの合板を張るために、土台から上にナットが出るとまずいからなのです。
また、土台継ぎ手では、土台の上木側にアンカーボルトを入れ必要がありますが、逆になっているところもありました。
幸い土台の寸法は120mmです。仕方がないので、ナットからボルトが出ていないものは掘り直して付け直し、その他は必要な補強を・・と上棟準備が進みます。
第五のトラブル-「塗るな」と言っていた防腐塗料を塗ってしまった
Aさんのご家族。やや体質的に化学物質過敏症の嫌いがあったので念のため、木材への防腐処理をしないように最初にお願いをしていました。そのために、土台などは「ヒバ材」を使ったりしています。
ところが、上棟後に「防腐・防蟻剤」を塗布してしまったのです。
さあ、晴れて、めでたい上棟。
どんどん立ち上がっていく姿を途中まで眺めてから、会社に遅れて出社。
すると、妻から悲痛な電話が…
「防蟻剤が塗られてる!」
さて、ご紹介した大きなトラブルを整理すると下のようになります。
- 書くと言った基礎伏図を書かない約束違反
- 基礎伏図の間違い
- ホールダウン用ボルトの入れ忘れ
- 土台のくりぬきや取付や位置の不具合
- 防腐剤の塗布
決定打は、上棟した木材に絶対に塗るなと言っていた防腐剤を塗ってしまったこと。
もうこうなっては、施工会社の社長を引きずりだすしか方法はありません。
本当に惚れ惚れする基礎(2010.06.24)
上棟した木材に「絶対に塗るなと言った防腐剤」が塗られてしまったAさん宅。
お気楽な現場監督は、『解体して、新しいヒノキに変えます。基礎にも防蟻剤が滴ってるだろうから、色のついた部分を削り、補修します』と返事したそうです。
またこれを知った売り主。今までの自分たちのしていたことをすっかり忘れ、「体質は変わらないと思う」なんて言っていたそうですねぇ。
Aさんにすれば、売り主のいい加減さがデジカメコースを依頼した理由なのですが、『ついこのあいだまで、売り主もヒドイもんでしたが、そんな自分たちのことはすっかり忘れてしまっているようでした』とはAさんの話です。
それからしばらくしてAさんから報告がありました。
社長曰く「木材は新品と交換します。基礎に関しても、ちゃんと防蟻剤が滴ってしまった箇所を削れるか保証できない。もし自分が施主の立場だとしたら交換してほしいと思う。だから基礎も撤去し、すべてやり直させてほしい」とのことでした。
そこまでやる必要があるか悩みましたが、先方の希望でもあったので、そうしてもらうことにしました。
現在すべての解体・撤去が終わり更地の状態です。
そして同時に、次のようなメールもいただきました。
呼吸がうまくできなくなり、過呼吸症候群にもなってしまいました。
自分で思っていた以上に心身にダメージがあったようです。
忙しい仕事の合間をぬって、夜中にチェック、毎回問題箇所を発見、その対応、また通常の仕事、というサイクルをまたしなければいけないかと思うと気が滅入ってしまって。
不安神経症的になってしまっているのが、よくわかります。
さらにAさんのメールは続きます。
社長も管理の不徹底をはじめて知ったらしく、社内でも管理を徹底するとのことでした。
それから1ヶ月。
できあがった基礎を見たAさんからのメールが届きます。
あまりに1度目と違っていたので、土足で入ってはいけないカンジがして、思わず、靴を脱いで中に入ろうとしました(笑)
施工者の心がけ次第で、こんなにも変わるもんなんですね。
同じ図面で、2種類の基礎という貴重な体験をさせてもらいました。
おかげさまで、雨降って地固まるというか、コミュニケーションがうまくいきはじめ、少し大らかな気持ちで、作業を見守ることができるようになりました。
こうやってAさんが『惚れ惚れする基礎』ができあがったのです。
確かに下の写真。コンクリート打放し仕上げにしても大丈夫なほどのきれいな仕上がりです。
「基礎にもったいない!!」
みんなかんばったようです!!
変えられる。変われる!!(2010.06.25)
さて、心を入れ替えた工務店さん。やることが違います!!
Aさんが本当の意味で「惚れ惚れする基礎」と言った工事が次々と続きます。
下の写真は、最初の基礎写真ですが、アンカーボルトが見えません。田植え式でアンカーボルトを入れたのでしょうか。
ところが次の基礎では、型枠固定まではしていませんが、鉄筋にアンカーボルトが固定されています。そして、もっと心憎いのが、アンカーボルトの先端に巻き付けられたビニール。これ実は、コンクリート打設時にコンクリートがアンカーボルトの先に付かないように養生しているんですね。
ここまでの配慮をするとは。やっぱ、仕事が違います。
次なる配慮。
それは、以前あれだけ彫り込んだ土台も、次の土台はきれいな剛床専用のナットで取り付けています。実はこれ、私の方で「こんなものがあるから工務店に伝えておいて」といったものをAさんから工務店に伝えてもらい、それを工務店が採用したんですね。
これで土台の見苦しいカットもなくなり、土台の断面積すべてで建物を受け止めることが出来ます。
今、この建物は最後の仕上げ工事の真っ最中です。
途中、Aさんから「こんな工事をしているがどうなの」という問い合わせを1.2度いただきましたが、以前あれだけしていたメールのやりとりは激減しました。
気になる工事の不具合は、社長とのコミュニケーションですぐに対処してもらっているそうです。
以前は仕事が終わったあとで、懐中電灯を付けなければわからない夜中に、気になってチェックしていたことも、新しい基礎を見て、再び上棟する我が家を見て、その苦労も吹っ飛んだかも知れません。
もし、日常生活を犠牲にしてまで工事をチェックしに行っていなければ、何も気づかないまま建てられていたでしょう。
もし、今の工務店が注文住宅をしていなければ、建築主の気持ちなど推し量ることなく、基礎など作り替えていなかったかも知れません。
そう考えれば、いつも人生には2つの道が用意されている。
ただ、そうとは知らずに一本道だと思って通り過ごしているのかも知れませんね。
それなりに長い話を提供してきました。
最後に「こうするべき」といった教訓めいた話で締めようと最初は考えていたのですが、やめました。私のたどりついた感想は上のように全く違ったものだったからです。
Aさんは、『同じ図面で、2種類の基礎という貴重な体験をさせてもらいました。』といっています。
やり直しがきかないと思っていた人生の、しかし、ほんの短いやり直しを経験することで、私はなにか違ったもの、違ったひとを見ているような気がしています。
変えられるんですね!変われるんですね!!