トレードオフに要注意
しかし、最近の動きを見ていると、住宅会社はエコポイント導入に遅れまじと、「次世代省エネルギー仕様」に取り組んでいるのは良いのですが、ほとんど断熱材メーカーの言いなりで断熱材を決めている所があります。つまり、次世代とはなにか、断熱って何か・・という基本的な知識を置き去りにして設計や工事が進められている現状があります。
そのもっとも典型的な例が『トレードオフ』という設計方法を用いた住宅です。右の図のように、小屋裏収納やロフト、あるいは傾斜天井、勾配天井といった部分は天井内の空間がほとんど取れず、厚い断熱材を入れることが出来ません。
そのために、次世代省エネルギー仕様の運用では、『トレードオフ』といって一部で薄くしか入れられなかった断熱材を他の部分で埋め合わせをして、建物全体としてのQ値(熱の損失度合い)をクリアすればよいと言う便宜的な方法も良いとされています。
これは、充填断熱だけに認められている方法ですが、たとえば真壁の部分はその部分の断熱材が薄くなるので、他の部分で補う。小屋裏収納やロフトがあるなど厚い残熱材が入れられない屋根または天井は1/2まで断熱材の厚みを薄くしても良いが、それを外壁や窓、床で補うという方法が認められています。
もちろん、厚い断熱材を入れるために建物の高さを高くしたり、天井高を下げることはある意味で不利益となり、そのために断熱材の厚みを下げることの意味はあるのですが・・・・
しかし、ここで大きな大きな問題があります。
数値はOKでも、実情に合わない厚み減少
右の図で分かるように、建物がいつも太陽熱を浴びているのは実は屋根面、天井面なのです。建物と建物に挟まれたB宅が外壁や窓に太陽熱を直接浴びることはありませんが、太陽の光はそれでも四六時中降り注ぎます。
ところが、屋根または天井の断熱材を規定の半分まで下げていますから、当然に太陽熱はどんどん入ってきます。 つまり、お金をかけて次世代省エネルギー仕様にした。きっと快適だろう・・・と思っていても『トレードオフ』を使って屋根あるいは天井の断熱材の厚みを本来必要な厚みの半分程度にまで下げてしまっていると、数字のマジックで建物全体の熱損失(Q値)は変わらなくても、実態としては、実は全く快適ではないと思えるのです。
特に天井あるいは屋根の断熱材の厚みを半分にすると、建売や一般の住宅と同レベルのワンランク下の省エネルギーレベルになってしまいます。
次世代にしたつもりなのに暑い!!
それは、「自分で出来る断熱リフォーム」で説明した方法。厚み100mmの断熱材しか入っていなかった断熱材を自分で200mmに変えたことによって、快適性が大きく向上したのと全く逆の現象になってしまうのです。だって、熱の入り方、逃げ方は単純に断熱材の厚みに比例します。断熱材が厚いほど、外からの熱も入りにくくなります。
住宅会社の問題
また、もともとから次世代省エネルギー仕様で建てたことが無い多くの住宅会社では、たまたま時流で次世代省エネルギーの仕様で建て無ければならないとなったときに、その多くは断熱材メーカーの説明だけを丸飲みしてしまいがちです。
そして確かに『トレードオフ』は、認められた設計手法であることは事実です。
しかし、現実には、断熱材の厚みが半分になるのですから、 『トレードオフ』を使った次世代省エネルギー仕様。特に屋根、天井面の断熱材の厚みを半減させた住宅では、天井、屋根に限ればワンランク下の断熱性能と同じになってしまい、それなのに四六時中太陽にさらされて太陽熱が降り注ぎ、「次世代省エネルギーだ!!」と当初期待していたほどの効果が出ない恐れが十分に考えられるのです。
次世代省エネルギー仕様でのトレードオフ
充填断熱の場合のみ使える基準です。
上の図は木造、軸組工法の住宅の例です
『トレードオフ』を使った次世代省エネでは、そのデメリットも十分に納得したうえで使用されることが肝要ですよ。そして、薄くしか入れられない部分以外の屋根や天井は、本来必要な厚みの断熱材を入れるようにしておきましょう。