欠陥工事など住宅トラブルを抱えると、どうしても「弁護士」を頼らざるを得ません。
私も15年ほど前から裁判に関わりを持ち始め、今では10数人を超える弁護士さんとやりとりをしてきました。
裁判に関わった件数も35件を超えます。
そうすると、見えてきたものがあります。
それは、弁護士に依頼をしても『勝つ弁護士と負ける弁護士が存在する』と言うことなのです。
その差はどこにあるのでしょうか。
裁判の勝ち負けは、弁護士のある資質で決まる
でも、弁護士って、めちゃめちゃ頭が良い~ってイメージなのですが、そうでもありまんせん。といってもちろん「アホなの」ではありません。
頭は確かに良いのでしょうが、裁判って実は、頭の善し悪しだけで勝てるものでは無いんですね。そもそも裁判官も弁護士も検事も、司法試験を通っているのですから頭の良さでは皆同じレベルです。
その弁護士、あるいは相手の弁護士の基本的な資質次第で勝てる裁判も負けてしまうことはよくあります。その基本的な資質って何なんでしょうか。
そういう負けそうな裁判だから、堀さん助けて・・と依頼を受けたことも二度三度。
そこから見えてきたものは、意外と、裁判に勝つのは、その弁護士の基本的な資質と問題意識が大きく左右するということだったのです。
頭のいい人たち族
その話の前に、「頭のいい人たち族」の傾向を見てみましょう。
右の図は、最近のエリートさんの傾向です。難関中の難関である司法試験を通った裁判官、検事、弁護士の数は全体で3.5万人。
医師は、歯科医を入れれば約40万人。(意外と多いですね!)
日本を仕切るキャリア官僚は推定1.5万人。(ものすごく少ないですね)
これ以外に企業に勤めるエリート社員がいますね~。 まぁ。建築士なんて、掃いて捨てるほどの110万人もいます。
いろんな弁護士(素の弁護士達)
頭の良さだけは天下一品。でも性格は私たちと全く同じです。
そんないろいろな弁護士を少しだけのぞいてみましょう。
オレは頭が良いんだ・・うぬぼれ弁護士
弁護士の仕事の中で医療裁判や建築紛争などは、ある程度専門家(医師または建築士)が関与しないとわからない分野です。ところが、弁護士の中には、『俺は頭が良いんだ』と本気で思い、本気で行動しているお馬鹿な弁護士がいます。
これは布基礎だ!
不同沈下を起こして、家が大きく傾き裁判を起こしました。ところが建築主が依頼した弁護士さん、延々と1年もの間、「べた基礎」を「布基礎」と思い込んだまま弁護活動をしていました。
その弁護士さんは、「○○住宅ネット」に加入している方で、その弁護士にも相談できる建築士はいたし、事実、裁判では、構造的な見解を述べた意見書も建築士の名で提出されていたのですが、どうも自分が必要と感じたときだけ建築士に相談していたようです。
自分は頭が良いんだと誰にも相談せず、勝手な思い込みで一人相撲をして、いたずらに時間だけを費やしていました。そのため、1年以上かかっている裁判でも、ほとんど進展がありませんでした。
鼻でせせら笑う弁護士
北海道の方が、信州のA社という設計施工業者に家を依頼しました。
打合せには飛行機が必要な距離です。
今で言うデザイナー住宅的な建物だったので、これだけの遠隔地の業者を依頼したのですが、当然に実際に工事をする業者は、北海道の地元業者です。監理もしないほったらかしの現場、初めての寄せ集めの下請け業者。つまるところ、欠陥工事のオンパレードでした。
裁判をすると連絡だけ受けて事件も忘れかけた1年後、「裁判がうまく進んでいない」とその建築主の方から受けました。
どうも、弁護士が建築主の意向を無視して、建築士にも相談せず、裁判を勝手に進めていたようなのです。その方が、「建築士と相談しながら進めないとダメじゃ無いんですか・・」と言って、弁護士から電話があったので、私は、「いくらでも協力しますよ」と言う話をしたのですが、その弁護士は私の話を鼻でせせら笑うように「フン」という態度に終始し、そのとき送ってもらった資料も建築士でも難解な補修方法を相手から提案されていましたが、そんな提案の善し悪しなど判断し、対応など出来るのでしょうか。
その後何の相談もありませんでした。
「自分は頭が良いんだ。建築の事も、勉強すればわかるんだ」とばかりに一人相撲をしていたようです。
そりゃあ。負けますよ!・・独りよがりの弁護士
建築紛争にはどうしても専門用語や技術的な争点がついて回ります。
たとえば、『基礎』という言葉と意味は、住宅を建てる人ならほとんど知っていますが、『底盤、かぶり厚、主筋、D13、21N/mm2』なんていう用語になるとちんぷんかんぷんです。
ところが、工事の不具合、施工ミス、欠陥住宅と言ったいわゆる工事の瑕疵に関わる欠陥住宅裁判では、このような技術的な用語やその意味が裁判で重大な意味を持ちます。
そしてそのような用語や意味をわかる弁護士などいませんから、これらの裁判では、弁護士と建築士がタッグを組まなければうまくいきません。
ある方が裁判の終盤に相談に来られました。
『負けそうなんです!!』
その方の住宅は防火地域に建つ重量鉄骨造の建物なので『耐火皮膜』と言うものが必要です。簡単に言うと鉄骨の柱と梁が火災で燃えないようにロックウールなどの燃えない材料で皮膜をする工事のことで、立体駐車場の梁などによく吹きつけられている材料です。
ところが、この工事費が見積書に計上されておらず、工事もせず、しかし、完了検査はごまかして受けていました。
完全な違法工事だと言うことで裁判をしたのですが、あろう事か、相手は、『当初、耐火皮膜をするには500万円もかかるから、あんた(建築主)が不要と言ったから止めたのだ』というウソの答弁をしてきました。
つまり、やっていないのは違法建築だと認める。しかし、やらなかったのは建築主が不要だと言ったからだ・・という責任転嫁をしてきたのです。そして、その費用を500万円かかる見積書を提出したが、高いので建築主自ら止めたのだという論法です。
しかし、この弁護士が取った態度は、『そう言う約束は無かった』という反論だけだったのです。
たかだか数十坪程度の住宅の耐火皮膜の工事など、せいぜい数十万円程度だということは、工事関係者あるいは建築士なら誰だってわかることなのですが、そんな相場観など知らない弁護士は、『そもそも500万円もかかることはあり得ない。全くのでたらめの金額だ』と反論をすれば良いのに、建築士に相談することも無く『そう言う約束は無かった』という反論しか出来なかったのです。
青い弁護士
人間だれでも「若い時代」を通り過ぎます。「青い時代」です。
何も知らずに社会に出て、青臭く、生意気で、まるで一人で何でも出来るような顔をしています。でも、その青臭さも、世の中にもまれて本当の大人になっていきます。学校をでたばかりはまだまだ青臭い。
弁護士も同じです。
長い勉強を経て司法試験と司法修習生の関門をくぐった人間だけが裁判官や検事、弁護士になれます。でも「青さ」は同じです。もぎたてのリンゴのような「青々とした学問」を手に携えています。
書生論をぶつけた1年生弁護士
ある建築主が問題施工や、約束と違う材料を使っているということで、建物が完成しても一部の支払いを止めていました。そうすると、おきまりのごとく、相手から「請負代金請求訴訟」が行われました。
その弁護を担当したのが、ベテラン弁護士と1年生弁護士の二人の弁護士。しかし、実質的に弁護は1年生弁護士が行っていました。
そして、その弁護士は、「実際に完成したものと説明に食い違いがある。説明に錯誤があるので契約は無効だ」という「青い主張」を繰り返していました。
民法でも錯誤による契約解除は認められていますが、「錯誤」なるものを立証しなければなりません。しかし、そもそもどのように誤解したのかは、人間の心の内部の問題なので、そう簡単な事ではありません。
でも、この1年生弁護士。延々と1年もその主張を繰り返していました。
調停の場で、裁判官が「ところで損害額を出す気はないの」と言われて、建築主の方が、何かおかしいと気づき、私に相談をかけてきました。
変な弁護をしているなぁ・・と思ってよくよく聞いてみると、やっと真相がわかってきました。
タッグを組んでいたベテラン弁護士はその弁護士事務所の所長なのですが、弁護士会の役員の仕事で忙しく、ほとんど1年生弁護士の仕事のチェックをしていなかったのです。
だから、「契約の錯誤による無効」という主張は、学問的には問題ないが、実務では扱いにくいということを知らずに、「錯誤」という主張を繰り返していたのです。
このとき、裁判官から、「損害額を主張する気はないの」という助け船がでたから建築主も気がつきました。その1年生弁護士は、それでも気がついていませんでした。
超・横着な弁護士
裁判では、自分の言い分(主張と言います)を紙に書いて提出します。
本来、裁判はテレビで見るような検事、弁護士、裁判官が証人や被告人に質問する場面があります。
このような尋問形式(面と向かって口で言い合う方法)が裁判の本来の姿なのですが、みんな時間が無くても、そんなことをやっている暇がありません。
だから、尋問をする前に、自分の言いたいことを書類で提出します。
それを「準備書面」「といいます。
本来行うべき証人尋問の前に準備として提出する書類なので、「準備書面」ですね。弁護士が作成します。
『読んどいて・・』弁護士
ところが、ある弁護士は、横着の極みで、建築部分の反論は、
『相手に対する反論反証は、堀建築士の意見書の通りである』という一行だけで済ました弁護士がいました。
要は「証拠提出したから、読んどいて~」という話です。
まぁ、これでも主張したことに変わりは無いのでしょうが、ここまで横着な弁護士は初めてみました。もちろん、私が作成した意見書を、その弁護士もチェックするのですが、チェックは文法の「てにおは」だけです。句読点の間違い探しをしているだけ・・という弁護士でした。
この依頼人は、地裁でボロ負けに負けてしまったのでおかしいと思って私のところに相談に見えられました。そして、私が関わった控訴審(高裁)で、その弁護士が作成した、上のような横着な準備書面を見つけ、地裁がボロ負けだった理由の一端を垣間見たのです。
開き直る弁護士
弁護士が自分のミスを隠すために、依頼者に開き直り、自ら裁判から手を引いた話です。
仕事は信頼関係が大事なんだょぉ、と開き直った弁護士
山本さん(仮称)は、工事途中におかしな工事に気づき、施工者に説明を求めました。
ところが施工者は十分に説明をしないまま押し問答となり、あげく、契約解除を申し出てきました。
その後施工者は未払いの工事代金の支払いを求めて裁判に訴えました。
当然、山本さんは、工事に問題があるのだから、それを直すのに○○万円かかるから、請求されている未払いの代金は支払えないと反論します。ところが、以前から気になっていたDという問題点はそのとき問題点として挙げられていませんでした。
裁判の中盤になっていましたが、以前から「どうしてDの問題点は挙げないのですか」と説明を求めても、一緒に参加している建築士ともども、要領の得ない説明に終始します。
仕方が無いので、山本さんは、私にあらためてDと言う問題が問題施工かどうかを尋ねてきました。
私の判定は、「Dの問題は明確な建築法令違反だ」というものでした。
それを受けて山本さんは、改めて弁護士に、「Dの問題も問題点として取り上げて欲しい」と求めました。
それ以外にも、多少、山本さんと弁護士の間で医師の疎通がうまくいっていなかった部分もあったようなのですが、その弁護士は突然「貴殿とは信頼関係が築けないので、弁護を下りる」と一方的に通告してきました。そして、一方的に辞任届を裁判所にも提出したのです。
私の意見書では、「Dの問題は、専門的な分野の問題なので気づくのが遅かったとしてもやむを得ない」とわざわざフォローする文面まで書いているのに、自分が今まで取り上げなかったことを誤るわけでは無く、むしろ、「信頼関係が崩れた」と一方的に相手のせいにするような文面を投げつけて逃げてしまったのです。
次ページは、これらのまとめです。
なにが裁判の勝敗を左右するのか。
上の記事は全て私が実際にかかわった弁護士または建築主の話です。
もうおわかりですね。
弁護士も人間です。
頭の良さと人間性は関係ないのです。
頭の良さなんて司法試験を通った連中は皆同じですから。