名義貸し建築士に断罪

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名義貸しの監理建築士に断罪!!(最高裁判決)

平成15年11月。最高裁は欠陥住宅で名義貸しを行った監理建築士に対して、住宅購入者に対する責任を認め、490万円の賠償を認めた。

事件の概要

1994年、B建設会社は、建売住宅を計画し、建物の設計をC建築設計事務所に依頼した。その代表たるC建築士は、設計作業を行い、確認申請を大阪市に提出し、同時に確認申請書に記載する監理者の欄に自身の名前を記載した。
その時点では、B建設会社とC建築士は工事中に監理を行う契約はされておらず、C建築士もB建設会社の有資格者が工事中の監理をするであろうと考え、そのまま放置して、工事が着工された。
しかし、工事は、設計上指定した鉄骨の柱の寸法を小さな材料に変更したり、基礎工事の手抜きを行い、法が要求する構造耐力を有していないなど、重大な瑕疵のある建物であった。

同年9月、住宅購入者Aさんが建物を購入し、代金4420万円を支払い、その後入居したが、車両が通ると振動し、外壁にひび割れが生じるなどの不具合が発生し、Aさんは、建物の安全性に瑕疵があるとして、土地、建物の売買契約の解除の意思表示を行った。

そして、高裁で建物の瑕疵を認め、B建築会社とC建築士の両方に対して損害賠償の判決が出たが、C建築士はこれを不服として最高裁に上告をしたものである。

最高裁は、C建築士の上告を棄却し、高裁判決を支持し、490万円の賠償責任を有すると判断したのである。

最高裁の判決理由

C建築士の上告を棄却した理由を最高裁は次のように述べている。
(注:判決本文ですが、こちらで少し読みやすく改変している部分があります)

■建築士法では,建築物の新築等をする場合,各規定に定められている一級建築士、 二級建築士又は木造建築士でなければ,その設計又は工事監理をしてはならない旨を定めている。

■建築士法5条の2の規定は,各規定に定められている建築物の工事は,建築士の設計によらなければ,することができないこと。

■ その工事をする場合には,建築主は,各規定に定められている建築士である工事監理者を定めなければならず,これに違反した工事はすることができな いことを定めており,これらの禁止規定に違反した場合における当該建築物の 工事施工者には,罰則が科せられるものとされている(法99条1項1号)。

■そして,建築士法18条の規定は,建築士は,その業務を誠実に行い,建築物 の質の向上に努めなければならないこと(同条1項)

■ 建築士には,法令又は 条例の定める建築物の基準に適合した設計をし,設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務があることを定めている(同 条2項,3項)。

■ 建築士法及び法の上記各規定の趣旨は,建築物の新築等をする場合における その設計及び工事監理に係る業務を,適切 に行い得る専門的技術を有し,かつ,法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし,その設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている一級建築士,二級建築士又は木造建築士に独占的に行わせることにより,建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ,その基準を守らせることとしたものであって,建築物を建築し,又は購入しようとする者に対し,建築基準関係規定に適合し,安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするものである。

このように,建築物を建築し,又は購入しようとする者に対して建築基準関係規定に適合し,安全性等が確保された建築物を提供すること等のために,建築士には建築物の設計及び工事監理等の専門家としての特別の地位が与えられていることにかんが みると,建築士は,その業務を行うに当たり,新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士法及び法の上記各規定による規制の潜脱 を容易にする行為等,その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があるものというべきであり,建築士が故意又は過失によりこれに 違反する行為をした場合には,その行為により損害を被った建築物の購入者に対し,不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当である。

知らないではすまされない監理建築士

上の凡例を読み返すと、実に明快な判断を下している。
1.建物は建築士でなければ設計できないし、監理もできない。
2.その建築士はその地位を特別に与えれており、それだけの責任や義務を有す。
3.その義務は建築主だけでなく、住宅購入者に対しても適用される。
4.その義務を履行しない者は不法行為として損害賠償の責を有する。
今回の判決は、単に名義貸しをした監理建築士の責任がどの程度まで関係するかが争点となったが、最高裁は、たとえ名義貸しであったとしても、それを放置したのは、建築士法に違反し、損害賠償の責任があると断じたのである。逆に言えば、名義貸しをしなくても、監理建築士は、その建物が適法に建てられ、設計図の通りに建てられていることを監理する義務を明確に示唆したものである。

このような見地に立って,本件をみると,前記の事実関係によれば,上告人の代表者であり,一級建築士であるCは,

■建築確認申請書にそが本件建物の建築工事について工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をしたのであるから,
■Cには,自己が工事監理を行わないことが明確になった段階で,建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため,本件建物の建築工事が着手されるまでに,B株式会社に工事監理者の変更 の届出をさせる等の適切な措置を執るべき法的義務があるものというべきである。

ところが,Cは,何らの適切な措置も執らずに放置し,これにより,B株式会社が上記各規定による規制を潜脱することを容易にし,規制の実効性を失わせたものであるから,Cの上記各行為は,上記法的義務に過失により違反した違法行為と解するのが相当である。そして, B株式会社から重大な瑕疵のある本件建物を購入した被上告人らは,Cの上記違法行為により損害を被ったことが明らかである。
したがって,上告人は,被上告人らに対し,上記損害につき,不法行為に基づく賠償責任を負うというべ きである。

そうすると,上告人の損害賠償責任を認め,被上告人らの請求の一部を 認容した原審の判断は,以上の趣旨をいうものとして,是認することができ る。論旨は採用することができない。  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶 谷 玄)
■判決文PDFは、ここをクリックしてください。
 最高裁判決文

現実は・・・

住宅の世界でも、実際に監理を行わず、名義貸しをしている設計事務所がまだまだ数多く存在しています。
責任感のある事務所は、業界紙に必ず載るこのような判決も注意深くチェックし、自身の責任を自覚していますが、業界紙すら見ない設計事務所では、法規の改定もしらず、自身の責任もまったく考えない無責任な建築会社や設計事務所が存在し、同時に、確認申請さえ、設計事務所に通してもらえば、後の工事は適当にする。と考えている建築会社、不動産会社が存在しているのも事実です。
このような最高裁判決があったことを、知ることによって、建築主自身を守る大きな指針が示されたのだと考えましょう。そして、建物の工事にいささかの不安があれば最高裁の判例を見せ、「私の建物の監理建築士も、この判例のようにならないように、きっちりと監理してくれるのですね」と念を押してみましょう。

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