コンクリートの誤解

下の2つの事例は、コンクリートには防水性がある。と誤解した工事が生んだ事故例です。

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やはりおきた漏水事故(コンクリートの打ち継ぎ面から)   5-912

ある日、サポートサービスを受けていたお客様から、こんなメールと写真をいただきました。
「先日1ヶ月点検を実施しましたが、大きな問題が見つかりました。それは、写真にあるように床下の水溜りです。「木になる話」のなかの「建物と周囲地盤」の説明にあるように、家の周囲の地盤を高くしたために、べた基礎の床下が低くなってしましました。これにより、外周の水分が床下にしみでて水溜りになっています。」
この現象は、基礎の打ち継ぎ面からの漏水で、このサイトでも紹介している問題です。

原因

床下に水がたまった原因は、この方が述べられているように、基礎コンクリートの打ち継ぎ部分が、周囲地盤よりも下がってしまい、コンクリートの継ぎ目から漏水したのでした。このあたりの理由と原因は、下記のページで詳しく説明しています。 ・・・「木になる話」のなかの『建物と周囲地盤

解決経緯

床下が周囲地盤よりも下がっている場合、設備配管からの漏水でもなく、外壁などからの雨漏れでも無ければ、コンクリートの打ち継ぎ部分からの漏水であることは、ほぼ疑う余地はありませんから、解決方法は、2段階に絞られます。
下図のように打ち継ぎ面をシーリングして漏水を塞ぎます。このとき、キチンと基礎にコンクリートカッターを入れて、シーリングが機能を発揮する適正寸法の溝を掘ることが一番肝心です。
それでも漏水が止まらない場合は、打ち継ぎ部分ではなく、その周辺のジャンカ(コンクリートの巣、空洞で粗雑な密度の部分)からの漏水と推測されますから、基礎の側面全面に防水工事をする必要があります。
注:コンクリート自体に浸透する浸透性止水材などもありますが、ジャンカ自体が改善されない限り意味がありません。

傾向

基礎の打ち継ぎ面よりも周囲地盤が上がるケースは、実は都市部の狭隘地で非常に多くの建物で見られます。特に、敷地自体の排水勾配をなだらかに取ることが出来ないため、この傾向が顕著ですが、

  1. 雑なコンクリートの打ち方。
  2. 周囲地盤の水はけが悪い。

という条件が重なったときにコンクリートの打ち継ぎ部分からの漏水が発生するリスクが高くなります。

やはりコンクリートは防水材ではなかった          5-740

この事例は、私が第三者監理をおこなっていた住宅です。

発見経緯

梅雨時に入居してしばらくして、全館空調をかけ始めた2日後。何気なく床下点検口をのぞくと、写真のように基礎の底版一面、そして、1階床下の断熱材にもビッシリと水滴が付いていました。
右写真の下は暗くてわからないが、床面全面にうっすらと水がたまっている。また、床の手前にみえるベージュの配管は全館空調用の冷媒管。上のザラザラ見えるのは、断熱材に付いている多量の水滴(結露水)。また、基礎コンクリートの側面も同様に水滴が付いていた。

状況と二重の原因

報告を受けてすぐに現場に駆けつけましたが、床下を潜っても実は漏水原因がわかりませんでした。しかし、極めて象徴的な事に、右図のように、床下を通っている全館空調用の冷媒管の廻りは水滴や結露が激しく発生し、基礎外周部の床下はカラカラで全く水滴も無い状態でした。

当時、蒸し暑い30度前後の日が数日間続いており、たまたま24時間空調を開始した2日目に当たっていました。
冷媒管の冷媒液の温度は15℃前後と低く、冷媒管を巻いている断熱材も普通のエアコン同様に薄いため、高温多湿の空気が、冷媒管周囲の冷えた空気に触れたため、その周囲は結露を起こし、外気同様の高温な外気に接する部分は結露が発生していない、と考えたのでした。
後日を改めて、そこを施工した建築会社が水圧検査などを行った結果、意外な事実が判明しました。
この建物の洋室はユニットバスではなく、現場造作で作った浴室だったのですが、コンクリートの隙間から、浴室の水が少しずつ漏水し、その漏水した水が冷媒管の周囲の低い温度に冷やされて結露していたのです。
コンクリートから染み出ていった経路は、下の図のように、

  1. 排水管の位置を間違えたために、 一旦打設した土間コンクリートをはつり、わざわざ水が通りやすくなった所を通っていた、
  2. コンクリートとコンクリートなどの隙間(打ち継ぎ面)を通り、最後に上の事例と同様に底版コンクリートと立ち上がりコンクリートの打ち継ぎ面の隙間から漏水していったのでした。

結局、原因は、

  1. 浴室からの漏水(経路はコンクリートの打ち継ぎ面など)、
  2. 冷媒管の周囲からの結露の2つだったのです。

上の例でも、あるいは「給湯管からの漏水」の二例でもわかるように、必ずしも漏水しただけで、床下の断熱材まで結露するわけではなく、単に床面が水で濡れるだけのケースがほとんどですが、このケースでは、たまたま床下に全館空調用の冷媒管があったことで、床下の空気が冷やされ、単なる漏水が結露を起こし、結露の水滴が床下断熱材や基礎側面にも充満する、という結果になったのでした。そして結露という自然現象は、見事に同じ床下でも、結露しているエリアと、からからに乾燥しているエリアをきれいに作り出していたのです。
冷媒管は想像以上にまわりの空気を冷やす。という今まで知らなかった事実と、コンクリートは、どんな打ち方をしようが水は通さない。という間違った理解が生んだ事故でもありました。

対処

結局、浴室全面もある特注の防水パンを作成した上に現場造作の浴室を造り、冷媒管は床下においていたものを持ち上げて吊り、さらに断熱材を厚く巻き込み、また、床下に調湿材を敷き込むものでした。

監理課題

監理をする立場からすると、最初から現場造作の浴室であることがわかっていたため、防水工事をしないと聞いたとき、コンクリート打設の手順指示と具体的なシーリング場所を指示したが、結局それらもうまく作業されていなかったようです。
また、仮にシーリングだけで耐久性があるかと言われれば、その程度は低く、やはり防水工事をするに勝るものはない。
しかし、ユニットバスが出来るまでの浴室は、このような現場浴槽がほとんどで、漏水事故などは少なく、結果として建築会社が防水工事の重要性を理解していない場合は、新たに発生する防水工事費を誰が負担するのか。という現実の問題にも直面する。これらの課題を残した現場でした。
また、冷媒管がここまで廻りの温度を下げているのを知らされた現場でもありました。

注:時々冷媒管を建物の中に隠蔽する方法を取られている住宅がありますが、床下を通るルートだけはやめた方が良いですね。

コンクリートは防水材だという誤解

この2つの事例に共通していることは、住宅業界の多くの人が抱いている大きな誤解です。
それは、コンクリートは防水をしなくても漏水しないのだ。。という誤解です。確かにコンクリートそのものは非常に水密性が高く、プール状に常時水でも張るという条件でもない限り、コンクリートから漏水することはありません。

でも、それは、『丁重に打設された密度の高いコンクリートの部分』だけのことであって、粗雑な工事で生まれるジャンカや、どんな建物でも絶対に生じるコンクリートの打ち継ぎ部分、コンクリートをはつった部分などは結局水を通すのです。
しかし、いまもって、コンクリートは水を通ささないと、本気で信じている住宅業界の人間が多くいます。

  • 補足
  1. コンクリート打ち放しの建物などは、浸透性あるいは撥水性の防水剤がコンクリート表面に塗布されています。
  2. マンションなど、コンクリートを何回も打ち継いでいく建物では、打ち継ぎ面には必ず打ち継ぎシーリングをしています。(上のケースの方法)
  3. 地下室などのコンクリート打ち継ぎ面では、打ち継ぎシーリング以外に、止水板というものを入れて止水しています。

つまり、補足1から3のように、普通は、『コンクリートは水を通す』という前提に立って設計されているのです。

しかし、住宅業界では、そういう経験(補足1~3のような経験)が少なく、コンクリートは水を通さない。と誤解している人が、まだ多く存在しています。
設計者も、現場監督も。。。。


コンクリートは万能ではない

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