判決スルーの術

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裁判官が、判決で問題をスルーする。
裁判の経緯を知っていないと、なかなかわかりにくい話なのですが、日頃のニュースの中で非常にわかりやすい例は、
たとえば、
「違憲かどうか」で争っていた。あるいは違憲であると争っていたのに、「違憲かどうかの判断をしなかった」という判決ニュースが流れることがありますが、これも裁判官が自分が書きたくないことをスルーする、物事の本質から逃げる一つの象徴的な例ですね。

このスルーのテクニック。
これは控訴審となる高裁で多いのですが、判決文でしか現れません。
裁判官のスルーテクニックは、こちらが主張したことを「信用できない」といった簡単な言葉で主張を採用しない。あるいは判決文そのものにも書かない。いわば主張そのものを、あたかも聞かなかったように判決を作ってしまうテクニックのことです。

住宅紛争ではどんなことがあるのか、具体的な例を見てみましょう。私が直接関わった事例です。

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こんな事がありました!

とある平屋の倉庫が不同沈下をしたと訴えられました。
沈下の傾斜角はせいぜい3/1000未満です。
住宅なら、不同沈下の部類にも入りませんし、復旧の必要もありません。生活にも支障は無く、損害賠償も認められないでしょう。
しかし、相手はある法律の規定を持ち出して「不同沈下だから直せ」と主張しました。
こちらは「住宅ですら、この程度の傾きで復旧などしない。瑕疵にもならない」と反論しました。

そのような押し問答が延々と続いた裁判。
判決は、相手の言い分を全面的に採用して相手の勝訴となっていました。
そして、判決文では、こちらの主張はほとんど一行も書かれず、相手の主張が正しい、『堀建築士の意見は信用できない、』という言い分だけが書き連ねられていました。

簡単に言うと、言ったことを無視する判決、聞かなかったことにした判決でも言うのでしょうか。
私が関わったのは控訴審(高裁)からでしたが、こちらがいくら公的資料で問題にはならないという根拠を提出しても、「身内が下した地裁判決は正しいはずだ」といった先入観で物事を見てしまう高裁の裁判官は、自分の意図(先入観)と違う主張をスルーしてしまうのです。

また、そうでなくても裁判って、裁判官にとって、言及したくないことは案外スルーしてしまうのです。その典型が上でご紹介した「憲法判断に踏み込まず」というニュースのタイトルに書かれるような事が起こるんですね。
訴えた側は「憲法判断を望んで提訴したのに・・」、
裁判官は「言いたくないから、判決ではスルーする」のでしょう。

判決への質問なんて受け付けないさ!

これが民間会社、行政、立法府にせよ、疑問点は後で質問する、議会で質問する、公開質問状を送る、記者が取材をする等々、いろんな疑問解消の機会が考えられるのですが、判決だけは質問も疑問も受け付けていません。

判決は書きっぱなしで、質問は一切受け付けない。
「裁判官は黙して判決を語らず」なんてかっこいい言葉を、逃げ言葉に使った裁判官がいましたが、裁判所って案外アンフェアーなところでもあるのです。

弁護士も呆れる「不毛な裁判」!

全くシチュエーションは違うのですが、ある弁護士がこんな言葉を書いています。
「何年も公判を続けた挙げ句、木で鼻をくくったような有罪判決に脱力した経験は、多くの弁護士が共有しているだろう。あの不毛な世界に後戻りすることは、やはりぞっとしない。」

たぶん、犯罪を犯した人のそうせざるを得なかった背景を説明しても、あるいは被害者の無念さをいくら訴えても、木で鼻をくくったような相場観でしか判決を下さない裁判官の事を言っているのでしょう。
裁判員裁判に参加して」より引用


判決したくないことはスルーする。
「信用できない」というスルーするに便利な言葉もある。
 それは、判決は書きっぱなしで、疑問、質問など受け付けない不条理があるからです。

 究極のスルー:最高裁、えん罪証拠をスルーする(袴田事件)

 罪を犯していないのに死刑判決を受け、何回も再審請求をするも、そして、最新のDNA鑑定で被告が無罪である証拠を示したのに、その証拠をスルーして再審請求を棄却する最高裁。
究極の証拠スルーは、実は最高裁で行われているのです。
最新の手法でDNA鑑定を行い、最高裁に証拠として提出したのに、その証拠を調べもせずに再審請求を棄却した最高裁判事に対して、その医師(法医学者:押田 茂實・日本大学医学部法医学名誉教授)は「裁判官は正義より出世が命か?」と問うています。

 究極のスルー(足利事件、菅家さん)

足利事件の菅家さんも同様に、証拠として申請手下DNA鑑定を審査もしてない(スルーの術)と指摘しています。

ともすれば「えん罪」など遠いことのように思われがちですが・・
そして、裁判官はキチンと見てくれるはずだ・・思いがちですが・・・
せっかく裁判に訴えても、証拠をスルーされては勝てる裁判も勝てません。このページでも書いていますが、上訴審では特にその傾向が強く、下級審(地裁)の身内の後輩裁判官が下した判決は間違っていないはずだという先入観をいだき、新たな主張や証拠はスルーする。そんな不条理があるのも裁判なのです。

注:最初の地裁段階でも、訴え方が悪いと裁判官の心証は相手有利に傾きがちです

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