私にとっては、冬はある意味であまり良い季節ではありません。それは、コンクリート不良の話が多くなるからです。
- 真冬に18N/mm2のコンクリートを打っている~。大丈夫ですか。。
- 真冬に養生を1日にしかしない~。大丈夫ですか。。
- コンクリートの上に雪が積もった。心配だ~。
- ひび割れがたくさん入ってる~。
「どれも大丈夫な事なんかあるものか・・・また、アホな建築屋か。。。」と思いつつ、
だいたい、冬はコンクリートについては、いつもろくな話が飛び込んできません。
それもこれも、あまりに無知な建築屋と基礎屋のせいなのですが、それでもそんな業者が闊歩して仕事をしているのを想像すると、飛んでいってどやしつけたくなります。
だから、冬はこんな話が飛び込んでくるために憂鬱な季節になります。
どうして憂鬱かって。
何も知らないアホな建築屋にかんで含めるようにコンクリートとは・・と説明しなければならないからです。
上の写真は、基礎ではなく、その上のレベリング材の割れを補修したのですが、
「直すなら、わからんように直せ。施主さんが余計不安がるような直し方をするな!アホ!!」という写真です。
こういう業者も「直し方までいわなあかんのか。ほんまに付ける薬がない」という業者です。
冬のコンクリート
コンクリートというものは、ゆっくり固まっていき、概ね、コンクリートを打ってから28日目頃に、設計上必要な強度になっていきます。
ところが、水を使うというコンクリートの性質上、暖かければ早く固くなり、寒ければなかなか固くなりません。
夏場であれば、コンクリートを打ってから1週間もすれば十分に設計上の強度になっていますが、凍てつくような冬空では、コンクリートを打っても設計強度に達するのに40日前後もかかってしまう場合があります。
そのため冬は、強めのコンクリートを打ったり、養生期間を長めに取ったりしています。
この程度のことは、大体の現場監督は知っているとは思うのですが、こんなやりとりをした住宅会社がいました。
夜には氷点下-3℃になっていたのですが、コンクリートは凍結しませんか?
法律には、
「コンクリート打込み中及び打込み後5日間は、コンクリートの温度が2度を下らないようにし、養生しなければならない」という最低限の事が書かれているのですが、こういう事は全く知らないようです。
普通、この時期のコンクリートの温度は10度から15℃程度ですが、朝晩が冷え込む時期になるとコンクリート自体も急速に温度が冷えてきます。
コンクリートも水分がある以上、概ね氷点下を下回ると凍結し始めます。
そして、コンクリートが凍結すると強度が出なくなったり、低い強度のまま未熟児のような状態で成長が止まってしまう場合もあります。
コンクリートが凍結を起こすと、表面では全く分からなくても、チョット金づちで叩くとボロボロ欠けてきます。
あるいは凍結しそうになった場所とそうでない場所ではしばらく経ってからの強度が全く違います。
生コン会社が出荷したから、大丈夫なんだ・・とは呆れた返事ですが、台風が来ているときにレンタカーを借りて、「レンタカー会社が貸してくれたんだから、台風のど真ん中を走っても大丈夫なんだ」と考えているのと同じで、使用者責任というものをまるで考えていない他力本願な会社もいるんです。
夏のコンクリートも乾燥が早く進行しすぎることでひび割れが多発して怖い季節ですが、冬のコンクリートも同じように養生不足から凍結するなど怖い、イヤな季節です。
今晩は冷え込むのか、氷点下まで気温が下がるのかなどお構いなく、生コン会社が出荷しているのだから大丈夫だろう。強いコンクリートを打って長めの養生をしているのだから大丈夫だろう・・と養生もせずにほったらかして現場を離れる会社が多いのもこの季節です。
そして、建築主が、明日は自分の家の基礎のコンクリート打ちだ・・・と、気温の心配をして天気予報を見ながらハラハラドキドキしているのに、その工事に責任を持たなければならない住宅会社は脳天気に「生コン会社が出荷したから大丈夫なんだ」とは、何か本末転倒している業界ですね。
ちなみに、上の写真は完璧な養生スタイルの一例です。
型枠を外す時期
コンクリートを打ったあとには、適当な時期に型枠をはずす事になります。
この時期は決められていて、『コンクリートの強度が5N/mm2以上になったとき』と決められています。
ところがコンクリートは寒いほど固くなりません。(強くならない)
平均気温とコンクリート強度が5N/mm2になる強度の関係を示したものが下のグラフです。
出典:日本建築学会・鉄筋コンクリート工事標準仕様書 2003
この表はコンクリートの強度そのものではなく、水セメント比で書かれていますが、水セメント比は、コンクリートの強度と相関関係があり、赤線のコンクリートは、春から夏にかけて打つ普通の強さのコンクリート強度。緑色のコンクリートは冬に使われている強度の高いコンクリートと考えればいいです。
そして、その表からは、平均気温が2度程度になると、普通のコンクリートであれば5日半、冬用の強いコンクリートを打っても3日程度かかっています。ところが春先の平均気温20度になると、あっという間にどちらのコンクリートも1日から1日半程度で型枠をはずすのに必要な強さに達しています。
これだけ外気温によって、コンクリートが固まる時間がちがうということですね。
冬期コンクリート:着こなしを知らない人たち
つい最近、ある地方の工務店が建築主に対して、『基礎のコンクリートを21N/mm2という強度のコンクリートで打つ』という話を建築主にしました。心配になって、その建築主は私に相談をされたのですが、私の答えは、「非常識な施工者ですね」
コンクリートというものは、コンクリート打設から28日目に設計強度に達していなければなりません。ところが、コンクリートの強度は気温に大きく左右されます。
同じコンクリートを打っても、夏は暑いので(気温が高い)早く強くなり(強度発現)、冬、気温が低いので、強度の発現も遅くなります。
ちょうど、暖冬であれば氷が出来にくく、寒冷であればあるほど氷が出来やすいのと、真逆の状態と考えれば良いです。
下の図は、冬期のおおざっぱな強度推移を書いていますが、仮に設計強度を21N/mm2とすると、27N/mm2のコンクリートでは、だいたい2週間を超えたあたりでだいたいですが21N/mm2の強度を超えています。
24N/mm2のコンクリートであれば、だいたい28日前後に21N/mm2の強度になります。
ところが、21N/mm2のコンクリートを打つと、28日目でも21N/mm2の強度に達していません。
つまり、強度の高いコンクリートを打つほど、早くコンクリートそのものの強度が出るので、冬期は27N/mm2から30N/mm2のコンクリートを打設します。
これを『温度補正』といいます。
でも、この会社はそう言うコンクリートの基本的な知識を知らないんですねぇ。
ところが、売っているものは構造に特化した、たとえばSE工法やテクノストラクチャーといった「この構造体を使えば地震にも強いですよ」というのを売りにして他社と差別化をしています。
つまり、良いお洋服(高い構造技術のFC)を仕入れて営業しているのは良いのですが、着こなし(施工技術)が出来ていないのと同じです。
比較的多いですね。この手の会社。
要は、アンバランスな会社です。
言い換えると、良いものを売っているから、良い仕事をするとは、必ずしも限らないんですね。
外部から導入できる設計上の技術力と施工上の技術力が異なっている例は案外多いんです。
立派な和服を売るなら、着こなしもキチンと勉強してよ・・。といったお話です。