誰しも、国が作っている法律は、多少の時代的なズレはあるとしても、それなりにまとまっているのだろう・・なんて思っているところがあるのだろうと思います。
でも、法律って意外と不完全、無責任なところがあります。 今回は、そんなお話です。
恐るべき雪の重さ
前回まで、地震力の計算の原理を説明してきました。そして、説明図の上では「積雪荷重-雪の重さ」も加える必要があると説明しましたが、実は、雪については、説明らしい説明はほとんどしていないのにお気づきだと思います。それは、都会っ子には、雪なんか関係ないと言うこともありますが、もう一つは、この話がしたかったからなんですね・・。
雪の重さ・・・とっても重いんですね。
下の図のように積雪1mの雪の重さは、約300kgもあります。 約と書いたのは地域によって雪の重さが指定でき、たとえば札幌市では高さ1cmの雪の重さは3kg/㎡で、金沢市では2.9kg/㎡となっています。(指定がなければ、法律では最低2kg/㎡以上です)
この重さ、地震用の法定積載荷重の60kg/㎡よりはるかに重いですね。そして、札幌市では、積雪1.4mのエリアと、1.9mのエリアが指定され、金沢市では、積雪1.0mのエリアから積雪2.0mのエリアまで指定されています。
積雪2mなんて、重さ約600kgですよ。
2階の床面積が50㎡だとすると、なんと30トンも2階の屋根に載っているんです。
都会育ちの人間からすると考えられないほど、恐ろしい重さです。
そして、そこに大きな地震が来ると大変だ・・と想像できますね。
ちなみに私も、雪の重さの大きさに本当かいな~と数回の検算をしましたが、間違っていないと思いますよ・・。
さて。。。。雪の重さがわかってもらえたところで、
軸組工法では積雪を考慮していない
下の表は、軸組工法と2X4工法の2つの工法の法律で指定されている「地震係数」です。床面積にこの係数をかけることで、必要な耐力壁の量を求めることが出来ます。
ところが・・・
2X4工法では、積雪1mから、積雪2mまでの「地震係数」が示されています。
平屋建てで見るとその違いがよくわかりますが、
- 雪の降らない地域では、地震係数は11(軽い屋根)
- 積雪1mの地域では、地震係数は25と、積雪なしの地域の2.2倍以上
- 積雪2mの地域では、地震係数は39と、積雪なしの3.5倍 と積雪の有無で必要な耐力壁の量が大きく変わります。
ところが、軸組工法では、積雪時の係数が示されていないんですねぇ。
仕方ないので札幌市では、全てを重い屋根の住宅として設計せよ、と市条例で定めてお茶を濁しています。(金沢市は調べていません!)
なぜ、2X4工法ではキチンと積雪を考慮した係数を示しているのに、軸組工法だけ示していないのか。すでにこの法律が出来て60年以上を経ているのに、何も改定されていません。 うがった見方をすれば、積雪地域のことは、「おまえたち、勝手にやれ。そんなところまで手が回らん。興味がない」と言うことなのでしょうか。
そして、サポートサービスの図面を見ていると、意外と札幌など北海道の住宅会社が設計した住宅で積雪荷重を全く考慮せず、条例通りの重い屋根だけで計算し、しかも建築基準法ギリギリの壁量しか確保していない住宅によくお目にかかります。
金沢などの北陸三県でも、積雪時の耐震性を考慮していると感じた建物はあまり多くありません。(軸組工法2階建てでも、構造計算をしている建物は積雪が考慮されていますが・・)
たぶんですが、札幌などは意外と、都会的感覚でフラットな屋根をした住宅も多く、融雪装置が発達していますから、いつまでも屋根に雪を乗せておくことがないのでしょう。北陸三県では、地域性からか、瓦屋根も多く、融雪装置の普及も低いと思います。それなのに、なぜか軸組工法だけ法律を改定しない国、そのまま積雪を考慮しない設計者のどちらをとっても、いい加減な話です。
ですから、雪国で、軸組工法を「建築気準法を守って建てています・・」といったところで、こと耐震性に関しては何の気休めにもなりません。
このように法律って、意外と不親切、不完全、無責任なところがあるんですねぇ~。