工事中の火災・風水害

工事中に建物が火災を起こしたり、類焼したり、はたまた水害にあったら…

実はあいまいもこ…

民法には、債権者(注文者)が危険負担をする事を定めた民法第534条と、債務者(売り手や貸し手)が危険負担をする民法第536条の2つの異なった規定があります。
つまり、両論併記といった所でしょうか。

第534条(債権者主義)
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することが出来ない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は債権者の負担に帰する。

第535条(停止条件付き)
省略

第536条(債務者主義)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責に帰することができない事由によって債務を履行することが出来なくなったときは、債務者は反対給付を受ける権利を有しない。
2)債権者の責に帰すべき事由によって履行をすることが出来なくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利をわない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

解説:反対給付とは、工事代金などのこと。

第536条では、当事者双方の責に帰することができない事由、つまり、天変地変などによって、工事中の建物がなくなったり(滅失)した場合、債務者(請負者)は、工事代金を請求する権利は無い。と言っています。

 


 

一般的には、建売住宅などの所有権を移転させる契約の場合は、債務者(売り手)が保証する(危険負担する)場合がほとんどですが、注文住宅などのほとんどの工事請負契約では、その当たりを極めて曖昧にしています。

そのため、もっとも多い工事請負契約では、次のように書かれています。

住宅金融公庫の工事請負契約の例

第10条
天変地変、風水火災、その他注文者、請負者のいずれにもその責を帰することの出来ない事由などによって工事の既成部分又は工事現場に搬入した検査済み工事材料について損害が生じた時は、請負者は事実発生後すみやかにその状況を注文者に通知することを要す。
2.前項の損害で重大なものについて請負者が善良な管理者の注意をしたと認められるときは、その損害額と注文者、請負者の負担額とを双方協議して定める
3.火災保険その他損害をてん補するものがあるときは、それらの額を損害額より控除したものを前項の損害額とする。

つまり、天変地変や風水害、火災などの不可抗力の損害は、双方で協議して考えましょう。もし、火災保険などに入っていたら、その保険から下りる保険額は引きましょう。
というものです。

 


 

公庫に限らず、大手ハウスメーカーでも、このように火災保険等で補填されない損害は双方協議して決めよう、という例がほとんどです。民法第536条に書かれている「請負者」がリスクを全て負担するといった例はまずありません。

また、小さな会社の工事契約書では、火災保険等の記載もなく、単に双方協議して決めよう、といった記載も数多く見られます。
建築会社によっては、火災保険や第三者損害などが一つになった工事保険に加入している会社と、不景気で、工事保険にすら加入していない会社も存在しています。

工事契約の際は、危険負担(不可抗力の損害)に対しては、双方協議でやむを得ないものの、必ず、火災保険に入っているかどうかを確かめ、火災保険で補填する条文の無い場合は、次の文言を追加したいものです。

「請負者は、本工事費に該当する火災保険に加入し、不可抗力の損害が発生した場合は、その保険から補填された残りの損害額を甲・乙協議する」

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