紹介した側も、紹介された側も『善意』が根底にあります。
「善意の紹介」という行為が、どうして『善意』がトラブルを生むのでしょうか。
心の隙間に忍び込むトラブルです。
「見てください。ひどいんですよ」
このお話は、「宝飾の製造、卸」などを扱って成功された自営業の方の自社展示場建設のお話です。
宝飾関係と言っても、100円ショップに売っている本当に安いものから、2.3万円のほどほどのもの。さらに一個数十万円の高額なものまで様々ですが、この方の扱っていたものは、やや高額な方。ご自身でオリジナルの製品も企画製造して、卸もされていました。
そうすると、勢い高額な商品には、高級なショーケースと、高級感の溢れるお店が必要ですね。
「見てください。ひどいんですよ」
・・と言われてそんなにひどいんだろうか・・と見ると、パッと見ただけでは、普通のきれいな仕事ぶりです。
しかし、指摘されたところをよ~く、よ~く見ると、確かに壁はぷわ~んと膨らんでいたり、塗装された白一色の天井には小さなひび割れがあり、大理石の幅木(壁の一番下にくっついている高さ数センチの代物)と壁は凸凹とひずんでいる・・。
「これでも大きな手直しを経て、やっとこの程度の状態になったんです」
「手直しの前は、もっとひどかったんです」
「だから、残金は支払っていません」
「雨漏りもありましたが、未だに直っていません」
確かに指摘された仕上げだけを見てみるとヘタな仕事もありますが、致命的な部分でもなく、お客さんに見える部分はすでに直っています。残金を拒否する理由としては難しいでしょう。
でも、この方にとっては、この程度の仕上がりでは、とても我慢がならないようなのです。
なぜ、我慢がならないのか??
ここで、業界の尺度が問題になってきます。
この方の職業は「宝飾関係」というのが「我慢できない理由」をひもとくキーワードになります。
宝飾って、要は宝石、アクセサリーの類ですから、全ての商品が手のひらの中で見ることが出来るサイズです。
その距離わずかに10cm。
高額商品では、触るときに手袋をはめて扱います。
しかも、高額な宝石などはルーペでチェックしますね。
ほんのちょっとしたキズや汚れも見逃していては商売に差し支えます。
高額な部類の商品を扱っているのですから、展示しているショーケース自体も写真のようなロココ調のクラシックなもの。ショーケースのキズ一つ見逃せません。
そんな目で建物を見られたら・・・、並の職人では太刀打ちできません。
しかし、この建物を施工した業者は、「ヘタな仕事ぶり」を代表するような業者だったようです。
最初の完成したときは、天井はゆがんで照明器具と天井との間にすき間が見え、換気扇は斜めに取り付け、外壁のガルバリューム鋼板は波打ち・・等々ひどかったようです。
では、それだけ商品に心血を注ぎ、展示に心血を注いでいるのに、どうしてそんな「下手な業者」と契約したのでしょうか。。。。
それは、今まで商売上懇意にしていた人からの紹介だったからだそうです。
たぶん、
「店を建てたいよぉ~」という話から、
「それなら良い業者を知っているよ。こんど紹介して上げるよ」という話になったのでしょう。
よくある話です。
そして、その紹介された業者に、ある高級ホテルのコーナーを見せ、「こんな風な仕上げで行きたいんだ」と説明されたと言います。
さて、その後、設計者と施工者はその方の意に沿うように図面を書き、工事を進めました。
しかし、そこは悲しいことに、
たとえは悪いですが、
いつも大衆食堂の料理しか作っていないコックにすれば、そもそも薄味で隠し味をふんだんに使った、しかも食材を厳選した、下ごしらえにも時間をかけた、そして一流の調味料を使った・・という形容詞がつくほどのデリケートな料理など臨むべくもありませんねぇ~。
この方にすれば、1コース45,000円の高級料理を頼んだつもりが、出てきたのは、大衆食堂の濃い味付けと何ら変わらない料理です。
「いい加減にしろよ!!」と、この道に詳しい別のコック(元現場監督)を呼んできて、何とか様になる形にまで補修した・・というのが前段のお話でしたね。
元凶は、「紹介」で知った業者だ、と言うことです。
実は「紹介」でのトラブルは非常多いです。
住宅でも、親戚の紹介で業者を紹介してもらったが、ひどい業者であとあと、その紹介してもらった親戚ともつきあえなくなった・・という話もあります。(私のトラブル相談でも、2件ありました)
でも、紹介者は決して悪気は無かったはずです。
ここで思うのは、
私が良かったと思ったことと、人が良かった思うことは違うと言うことなのです。
典型的なのは有名料理です。名物にうまいものなしとよく言われますが、料理も「あの店の料理はうまい」という評判も、それを聞いて行ってみると「どうも自分には合わない。自分はうまいとも思えない」と言うことが起こります。
人の価値観が多様なので起こる問題ですね。
話をわかりやすくする意味で、比喩的に言うと、紹介する側は、「私が建てる安普請の家にはちょうど良い業者だよ」という説明のなかの「安普請」が取り除かれて、「良い業者」と言うことだけが一人歩きする。
紹介を受けた側も、紹介者を信じないのは失礼だからと、そして今まで仕事でもお世話になって悪い結果は出ていない。だから「良い業者」というフレーズだけを信用する。
どちらも善意なのに!!
このミスマッチ。非常に多いのです。
住宅で典型的なのは親戚関係、知人関係の紹介によるトラブルです。こじれれば修復不可能な関係にならざるを得ません。
この方は自分で業者を選んだのではなく、今までの取引関係を重んじて、今までの紹介者の商取引の経緯から大丈夫だと思い、「紹介」で業者を決めた。
「善意」がトラブルを生む。
「善意」が一つの落とし穴になる事件だったんですね~。