どんなに泥酔していても自宅のベッドに潜り込んでいる。男性によくみられ、帰趨本能と揶揄される行動ですが、女性には『巣作り本能』とでも言うべきものがあるようです。
それで私は偉い目に遭いました・・、といっては女性には失礼かもしれませんが、でも、家造りの思い込みは女性の方が強いようです。
そんな顛末を語る2題です。
主人との思い出を壊さないで!!
築20~30年の古い住宅を耐震補強しました。
耐震補強の関係で、昔の窓はいくらアルミサッシでも、立て付けも悪くなっているので交換することにしました。そうすると窓枠なども取り替えます。
最初は、昔の住宅なので、窓枠にはラワン材にオイルステインを塗ったものが使われていました。
業者は、何気なく、いつも使っているMDF基材に木目の樹脂シートを貼った、いわゆるどこでも使っている窓枠に交換しました。
(MDFとは、木材のチップを圧縮したもので、狂いがない。内装下地材に多用されている)
(ラワンとは、ラワンベニヤに代表されるように、今では安価な下地材として利用され、仕上げ材としては用いられることは、ほとんどない。しかし、戦後、高度成長期前半の建物では、樹脂シートなどの技術などがなかったので、仕上げ材としても多用されていた)
(オイルステインとは、木の木目をそのまま見せる塗装方法の一つ。最も安価な塗装)
しかし、その方(ご婦人7~80才、ご主人はすでに他界)が「どうしてこんな安物をつけるんですか」と憤懣やるかたないお怒りの様子です。
その話を聞いていくうちに、何となく理由がわかりましたが、
その方は、ご主人と、ずっと、ずっと、住み慣れた我が家の、昔ながらの、思い出の残った、古い、古い、でも今では絶対に使わない、ラワン材にオイルステインを塗った窓枠が、とっても高価で、大事なものだったのでしょう。
私が大切に守り続けた『家(巣)』なのよ・・という感覚だったのでしょう。
「今はこのような仕上げは行っていません。今回の方法が普通なのですよ」と説明してもご納得はいただけませんでした。
想い出は、なによりも重し。
まして、それがご主人と長年住んだ家の想い出なら、家そのものが想い出なのでしょう・・。
誰がなんと言おうと雨漏りだ!!
その方はきっと、親鳥が雛を慈しむように、大事に大事に、一生懸命家造りをしたのでしょう。
その家は、床はケヤキか何かの無垢のフローリング。壁はしっくい。天井は桐の無垢材。建具ももちろん、全て無垢材を使用し、人工建材は一切使っていません。サッシも木製です。
徹底的なこだわりぶりです。
私も杉板の天井はよく見ますが、桐の天井板は見るのも初めてです。珪藻土は多いですが、しっくいは珍しいですね。 (ただし、外観はサイディングです。屋内だけが徹底的なこだわりです)
そのためか、実は、部屋の温度が一般的な家よりも低いです。
そして、基本的に冷暖房は最小限に・・という考え方の方ですから、私が訪れた11月でも、ストーブが欲しいほど部屋は冷えていました。
その家は築1年ほどで雨漏りがありました。
比較的大きな雨漏りで、室内側にも雨水が流れ込んでいました。
しかし、問題はここからで、その方は床、壁、天井の所々に見える跡形が、雨漏りのあとであると主張します。調停をしているのですが、直す範囲でもめたため、私に調査の依頼があったのです。
確かに調べてみると、ところどころに本当に小さい面積ですが、結露を起こしたあとの水跡のようなものが残っています。そして、その方は雨漏りのせいだ・・と強硬に主張し続けます。
しかし、雨漏りが起こった外壁側から2mも離れた場所で、しかも、階段の裏側にほんの1cm程度の水跡も、「これは雨漏りの跡だ」と言い張ります。外壁からその水滴まで、雨が流れていった形跡はありません。(右の写真はイメージです。実際の階段は踏み板だけのオープンな裏も覗ける構造です)
推測ですが、部屋の温度が普通の家よりも低いために表面結露を起こし、その痕跡なのでしょう。
しっくいなどを使うと、湿度は吸うのですが、室温は低くなります。木材も湿度を吸うと、室温が下がります。けやきの床板などは、もともとの表面温度が低いです。そのため、材料の表面温度は他の家よりも低くなり、少しでも暖かい空気が侵入すると、他の家よりも表面結露が起こりやすくなります。
朝10時から夕方4時頃まで、昼飯もとらず、延々と
「雨漏りの跡だ」
「そうではありません。結露です」
という押し問答を続けていました。
そして、あまりに自説(全て雨漏りのせいだ)にこだわり続けるため、説明も説得も不可能と思い、話を打ち切り、出張料金も請求せず、その場を退散しました。
この方は、客観的にみれば、決して雨漏りではなく、結露だと疑われるのに、どうして「雨漏り」に固執しているのでしょうか。静岡からの帰りの新幹線の中で考え続けていました。
(新幹線代も、結局自腹ですが・・・)
私が見つけたその答えは・・・。
女性固有の『巣を守りたい(巣作り本能)』!!
最初のご主人に先立たれたご婦人の「ラワン材の窓枠へのこだわり」。
そして、次の「雨漏りの跡ではないのに、雨漏りにこだわり続ける」。
この二人の方にお会いしたあと、どうしても「巣作り」というものが頭に浮かんできました。
一生懸命作った我が家。そこにいろんなものが詰まっている。
前者の方は想い出。後者の方は住まいへの徹底したこだわり。
いわば、自分が手塩にかけて作り上げた『巣』を壊されたことに対する怒りなのだろうと思います。
それは、直して済む問題ではなく、壊されたことそのものが認められないのでしょう。
二番目の方。
私が結露の説明をしても、「なぜ!なぜ!」と執拗にその言葉を繰り返していました。
たぶん、それが原因だということを認めたくない。
それを認めれば、自分がこだわって作った家そのものを否定される(しっくいや桐の材料の良い面を信じて使ったのに、その材料にもデメリットがあった事を認めたくない)からです。
あくまでも雨漏りが原因なのだと信じ続けたい。
だから、自分が信じたい原因と異なる理由は、絶対に認めようとしない。
そんな審理が働いていたのでしょう。
この2つの事件。どちらかというと、男性には帰巣本能がより強く備わっており、女性には巣作り本能(巣を守りたいという本能)の方がより強く備わっているのだろうと思わざるを得ない事件でした。