最後にご紹介するのは、今から十数年前に、200万円ほどをかけて耐震補強をされていました。
しかし、今回の東日本大震災が気になり、もう一段の耐震補強をしたいと考えていました。 最初は、前回してもらった会社ではなく、他の会社で見積もりを取っていたのですが、高いので、結局、前回の業者にもう一度、耐震診断と見積もりをお願いしました。
そうして、いろいろな説明を受けたり、交渉をしていくなかで、フッと気がついたことがありました。
「それなのに、耐震診断では構造用合板を使った耐力壁で計算している。」
「おかしいですね!」 と昔の工事の不手際が発覚してしまいました。
右の図のように、構造用合板は土台や梁まで届かせて初めて所定の強さが発揮できるのですが、途中で止まっていると6割程度の強度にしかなりません。
実はこの方、前回の業者に依頼するのを躊躇したのは、前回、耐震補強工事に要した日数が1ヵ月近くかかったらしいのです。
タラタラ、タラタラ、大工さん一人が工事をして、イライラした記憶があるので、今回の見積もりを取るのを躊躇していたそうなのです。
でも、今回は2回目の耐震補強です。
構造用合板はどう張れば良いのかを知っていました。
だから、昔の不具合が発覚してしまったのです。
その後わかる範囲を調べてみると、どうも全て同じです。
構造用合板が途中までしか張られていないのです。
しかし、耐震診断では、平気でキチンと張れたモノとして計算をしていたのです。
こうなれば、相手も平身低頭。
「済みませんでした」 なのですが、後がいけません。
どんどん、電話口から遠ざかります。
電話に出ても曖昧な返事に終始します。
「以前の200万円の金補返せ!!」
といっても、なしのつぶて・・・。
もう、相手は逃げの一手です。
この業者、東京都のある区の耐震補強の名簿に登録されている、いわば区が紹介、斡旋している業者なのです。
効率の悪い商売なのです。
なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。 それは、リフォーム業界にも通じる、耐震補強特有の特殊な事情が作用しているのです。
効率の悪い商売
理由はいろいろありますが、一つは工事規模の違い、効率の悪さです。
住宅の新築工事は、1件2000万円程度で、粗利益は工事費の2割前後ですから、400万円程度です。事務員一人の一人社長で、全部を一人でこなすなら、1年に3~5件の仕事を受注するだけで、(2000万円x粗利益0.2×5件=2,000万円の粗利益額)
ここから事務員の給与を支払い、事務所経費や広告宣伝費を差し引いても、一通りの飯は食べれます。
対して、耐震補強工事は、150万円から、せいぜい250万円。
仮に1件200万円とすると、粗利益率が高くて3割でも、1件当たりの粗利益額は60万円。 一人で全部こなすにしても、新築住宅専門でやっている会社と比較すれば、同じ粗利益額を上げるのに、年間33件の仕事を受注しなければなりません。
打合せ手間の煩雑さ
平日は、顧客は出払っていますから、平日なら夜の帰宅後に打合せをする。あとは顧客が休みの土日が打合せの中心になり、その間に33件の現場をみながら、合間に見積を作成します。
この状態を考えれば、年間5件の新築専門と、年間33件のリフォーム専門では、どこかで手を抜かなければ、割に合いません。あるいは粗利益をもっと高くするか・・・・。
現場監理の手間を惜しむ
それを反映してか、いずれのケースも、現場監督を派遣せず、大工一人を現場に送り込んで、その大工が、ゆっくりと仕事をしていたそうです。
そして、上で紹介したケースも、最初の工事では、耐震補強に1ヶ月もかかったとぼやいていましたね。ここでも現場監理はしていなかったようです。
つまり、言葉は悪いですが、現場監理はほとんどせず、大工にその部分を任せていたのです。
そう。どこかで手を抜かなければ、
いえいえ、要領よく動かなければ、時間も身体も間に合いません・・!
大工は腕前より人あたり
そして、大工だって、あっちに十日。どこそこに二週間・・なんて現場を移動するよりは、じっくり腰を据えて、まずは、1件の家を一から仕上げたい。
そうすると、要領のよい、腕のよい、稼げる大工ほど、新築住宅のような、要は効率のよい仕事に流れる・・・・。
残るのは・・腕よりも、愛想や人当たりがよく、施主の目の前で仕事をすることも苦にならず、施主の発するいろんな無理難題、疑心暗鬼もうまく交わしてくれる・・そんな大工が良いのです。
行政の工事チェック面のバラツキ
今まで紹介した3つの事例は、いずれも耐震補強の補助金がでる工事です。
役所への申請や写真提出が必要なケースです。
でも、役所の姿勢次第で、キチンと工事監理や写真を求める役所もあれば、これらのケースのように「業者任せ」「写真提出はおざなり」でも通る行政もあります。
耐震化を進めるために「補助金」制度はあるものの、工事面でのチェック体制はまさに役所の考え方次第なのです。
どこかで手を抜かなければ、
身が持たない・・
のが本音。