多くの住宅で当たり前のように設けられている小屋裏換気。でも日本の法律では、設けていても、設けていなくても自由なのですが、その意外な実力の一端を見せつけられる事件をご紹介しましょう。
屋根裏にカビ! (5月) 5-920
この事件は、住宅ではなく、ある平屋建ての店舗を木造軸組工法で建てようとして建築会社とトラブルとなり、その調査のために現地に赴いた時に、偶然発見したものです。
経緯
建物は平屋建ての店舗として工事が進み、外壁は終わり、内装の下地が半分程度出来ている程度まで進んでいたのですが、材料選定について契約当初の説明と違う部分が出てきたために建築主が工事の中止を求めました。しかし、建築会社は協議も満足にせずに2.3ヶ月の工事中止の後に一方的に損害賠償請求(工事途中だが、工事を止めたりのは建築主に過失があるのだから残金すべてを支払え)の裁判を起こしました。
5月初旬、その裁判の反論調査のために現場に出かけたのですが、そのなかで、天井点検口から小屋裏をのぞくと、カメラのレンズが曇るほど湿気た空気で満たされていました。(写真左)
そして、ムッとした空気と共に、屋根の頂上付近の木材にカビが発生しているのが見て取れました。(写真右)
原因
この原因は右図のように、片流れの屋根で軒の出もなく、小屋裏換気が全く取れていなかったために、木材(グリーン材)などから発生する水分が滞留したままになり、木材が湿っ気、その結果カビが発生したのだろうと考えられます。
カビは、水滴が表れるギリギリの結露点に近いジトジトした感じの環境を好むため、必ずしも結露が発生する必要はありません。
天井裏はカメラのレンズも曇るほど暖かく湿気ていましたし、特に屋根の一番上の棟当たりでカビが多く発生していましたから、暖かく湿気た空気は屋根の上の方に上がっていき、カビの発育にとって高温多湿の天国のような空間だったに違いありません。
小屋裏がムッとしている理由は、工事中なので、そんなに水蒸気や湿気が発生する要素はありませんから、たぶんグリーン材(未乾燥材)の木材の水分などが蒸発し、小屋裏に封じ込められていたのでしょう。2~3月間も誰も入っていなかったのですからなおさらです。
そして、高温多湿の環境と、湿気ていた未乾燥木材という2つの条件が重なってカビが発生したのでしょう。
どんな小さな建物でも、小屋裏換気を軽視せず、多少なりとも小屋裏の空気を換気、排出することが大事だと考えさせられる現場でした。
屋根裏に結露がビッシリ! 6-1062
これは、重量鉄骨造で起こるべくして起こった内部結露のトラブルです。
発見経緯
ご相談が入ったのは1月の下旬。昨秋に入居し、初めての正月も過ごしたころ室内の壁が変色したり、浴室の壁と天井の隙間から茶色い水滴がしみ出している。というご相談でした。
右の写真は、在来浴室の天井と壁の隙間から出ている錆汁。
とりあえず図面を送ってもらって図面を見ていると、内部結露ではないかと疑い、建物を建てた工務店に壁と天井を部分的に剥がしてもらうことで話が進んでいきました。
剥がした状況
部分的に問題となっていた天井や壁を開けてみると、あっと驚くような光景だったようです。天井面と重量鉄骨の鉄骨の梁、そして、断熱材であるグラスウールがそれぞれビッシリと結露し、かつ、断熱材の袋の上には、結露水の落ちた水がたっぷりと溜まっていたのです。(外壁面は何も無し)
この写真は、天井を開口した2日後に筆者が取った写真ですが、その時点でもビッシリと水滴がそこかしこと点在しています。そして、こんな状態でよく漏電しなかったものです。
このとき、天井全域が、このような結露水で一杯になり、浴室から染み出ていた水滴は、これら結露水が鉄骨の錆と混ざった錆汁として出ていたのです。
そして、結露が起こっていた場所はすべて右図のような屋根となっている場所でした。
結露の原因
この建物は重量鉄骨造で、屋根の構造は、一つは金属製のデッキ+コンクリートに屋根防水。もう一つは、硬質木片セメント板(木片をセメントでプレス成形した防火用板状製品)に屋根防水という2つの方法です。
どちらも断熱性能は全くありません。
では、どうして小屋裏部分に結露が生じたのでしようか。
実は、断熱性能が無い、つまり、外気の気温と同化しやすい材料であったが故に結露が生じたのです。
冬季、外気の温度は氷点下近くまで下がります。それと同時に、この材料の表面温度も外気温と同程度まで下がります。
小屋裏部分の空気は逃げ場がないため、外に出ることはありません。
冷蔵庫から出されたグラスは、あっという間に水滴が出来ますが、それはグラスの廻りの空気が、冷たく冷やされたグラスによって急激に冷やされ水滴が表れるのと同じで、当時、小屋裏の空気の温度が10℃、相対湿度が60%程度と仮定したとき、冷やされた屋根材の表面温度が2℃近くまで下がると、冷やされた材料に触れた小屋裏の空気はあっという間に結露し、水滴が発生していきます。
内部結露と言いつつ、実は材料の表面温度が低下したことで生じている表面結露なのです。
注:よく内部結露という表現が使われますが、軸組内など、目に触れない部分で発生する結露の事を内部結露と言うだけで、結露発生の原理は、このような材料温度とその廻りの温度との関係によって生じる表面結露に過ぎません。
注:このような陸屋根形式は、比較的多く見られますが、ここまで大きな結露はあまり聞いたことがありません。その理由は使われていた材料に大きく起因しています。
材料の表面温度が下がると結露リスクが高くなりますが、合板や木材などは材料温度の低下が少なく、この建物で使われていたような鋼材やコンクリート、木毛セメント板などは、合板や木材よりも早く外気温の影響を受け、熱しやすく冷めやすい材料だったからです。つまり、真夏の炎天下の木材は手で触れないほど熱くはならないが、鉄板は手に触れないほど熱くなるのと同じで、コンクリートも厚みが薄いほどその影響を受けやすくなります。
対策
この対策には、材料の表面が冷えないようにする断熱化工事か、小屋裏換気を設けて換気する方法の2つしかありません。
しかし、小屋裏換気は、重量鉄骨造で、小屋裏換気の換気口すら取れない極小空間のため採用出来ません。
結局、屋根裏、梁のすべてに発泡ウレタンを吹き付け、材料を冷やさないと同時に屋根断熱という方法で建物を断熱することになりました。
小屋裏換気の意外な実力
この2つの事例は、「もし仮に、小屋裏換気があれば、何も起こらなかっただろう」と思われるのです。
最初の事例では、グリーン材の水分が屋根裏に閉じこめられ、小屋裏換気が無く、小屋裏が高温多湿になった結果、カビが発生しました。これも小屋裏換気があり、屋根裏が換気されていれば、カビは発生しなかつたでしょうし、いくら5月とはいえ、ムッとした空気にまではなっていなかったでしょう。
後者の事例も、仮に小屋裏換気が取れるだけの屋根裏空間があり、小屋裏換気があれば、仮に外気温が下がって材料温度が0度近くまで下がっていたとしても、小屋裏の空気も外気温に近い状態になるのだから、結露はしなかったでしょう。
小屋裏換気は、公庫融資を受けるときや、性能表示の劣化の低減の等級2.3を受けるときは必要ですが、 建築基準法では、小屋裏換気についての規定はありません。
しかし、ほとんどの住宅では小屋裏換気が設けられています。
何気なく暮らしいてる住まいにも、知らないうちに取りつけられている隠された機能が遺憾なく発揮され、建物を守っているのです。
人知れず、人知れず