皆さんがたは、建築にはいろいろな工法があり、それらはオープンになっているのだから、誰がしても同じなのだろう、と考えていませんか。
あるいは、工務店なのだから木造も鉄骨造もRC造も、みんな出来るのだろう、と考えていませんか。
そして、みんな資格を持っているのだから一定の知識はみんな持っているのだろう、と考えていませんか。
もし、その様に考えているのなら、それは大きな大きな間違いです。
ノウハウを軽んじたために失敗した外断熱 3-307
この話は、失敗とまでは言えないかも知れませんが、『これなら出来る』と錯覚したことでスタートした初めての外断熱工事に不具合が次々に出てしまった現場の話です。
【経緯】
この工事では、外断熱を取り入れたいという建築主の要望で、建築会社は、外断熱が始めてであっものの、資料を取り寄せたり、関係団体の説明を聞きに行ったりして、「これなら自分たちでも出来る」と考えて工事をスタートさせました。もちろん、建築主もこの会社が外断熱が初めてだ、というのは知っていますよ。
しかし、途中からどうもおかしい、と建築主が気になりだし、チェックの依頼があったのです。
さて、どんな状況だったのでしょうか。
【状況】
下の写真は一例ですが、断熱材の下地を作っていなかったために、途中で断熱材を止めてみたり、防水シートの施工手順がおかしく、サッシまで防水シートが届かずに切れてしまったり、あるいは柱や梁から金物やボルトナットが出ているために、その部分の断熱材をカットしていたら、凸凹の断熱材になっていたり、といった状態で、平たい部分はきれいなのに、細部になってくるととりあえず張り付けた、という状態だったのです。
外断熱ではあまり複雑な形状は断熱材の取りつけがやりにくく、好ましい形状ではありません。また、断熱材を貼る面には金物を出さない、あるいはボルトやナットは埋め込みという配慮も、こういう失敗があって初めて身に付いていくのです。外断熱も平らな部分は誰が貼ろうが失敗をすることはありません。しかし、細部になるほど経験やノウハウが必要になってきます。
もちろん、防水シートも断熱材を部分的に剥がして連続させ、断熱材の切れている部分も継ぎ足し、あるいは発泡ウレタンで補修するといった継ぎ接ぎ補修は出来ても、建築主にとって見れば、『新築なのに継ぎ接ぎ』と感じること自体が気持ちの良いものではありませんね。
初挑戦!気密化工事のショック
この話によく似た事例で、次世代省エネルギー仕様の気密工事が上げられます。このサイトのサポートサービスをされたお客様で、今までに2例ほど『初めて気密化工事に挑戦するんです。』というケースがありました。
もちろん、建築主も施工者が始めてであることは知っている。こういうケースの場合、気密化工事の知識は建築主の方が多いですから、建築会社も一生懸命に勉強をした。そして、お互いに初めての結果に興味がありますから、気密測定は必ず行いました。
その結果は、世間で言われているC値1.0競争には届かないそれぞれ2.5前後の数値でした。もちろん、本州では次世代省エネルギー仕様といえどもC値5.0以下で良いのですが、次世代省エネルギー仕様を宣伝文句にし、巷で噂されているC値1.0は無理でも、せめて2.0は出来るだろうと思っていたのに、この結果に建築主も施工者も大きなショックを受けたようでした。
やはり、教科書やハウツーものではわからない『コツ』があるのでしょう。気密化工事では、そのコツを掴むまでに、そして満足のいく結果が出るまでに数件の経験が必要だと言われています。
ノウハウやコツの必要な工法もある。
このことを説明するために、筆者は料理のレシピを例に取りあげることがあります。
今ではインターネットを検索すれば、いろいろな料理のレシピを拾い集めることが出来ます。もちろん、料理本を見ても構いません。
でも、その通りにしたからと言って、美味しい料理が出来るとは限りません。そのレシピ本のチョットした書き込みがポイントだったり、チョットしたコツが必要だったりすることはやってみて初めてわかることです。
もし、料理本やインターネットで探せるレシピだけでいつでも誰でも美味しい料理が出来るなら、誰だって名コックです。あるいは高名な料理人に付きっきりで指導してもらえば、一流の味がすぐにマスター出来るのでしょうか。そんなことは決してありませんね。
どんな料理も3回やらなければ自分のものにはなりませんし、自分なりにポイントを整理しておかないとすぐに忘れてしまいます。
これがノウハウでしょうし、コツなのでしょう。それは工法も同じで、特に外断熱や気密化工事はノウハウ、コツを必要とする工法なのです。
インターネットでいろいろな情報を集めることは大いに結構。
でも、上記の事を忘れないようにしましょう。
そして何事も経験第一なのです。
この話は、新しい挑戦をするな。といってるのではありません。十分な準備と研究、そしていざとなっても動じないだけの余裕が必要なのです。
注:余裕とは、予測出来なかった不具合が出ても対処出来る時間と人とお金の余裕です。
時間:不具合が発生しても対処できる工程的余裕
人 :不具合の原因や対策が考えられる技術レベルをもった技術者
金 :不具合の手間、補修がカバーできる程度の利益率
経験に勝るもの無し