契約という行為に対する無知から、トラブルが起こることがあります。そんなトラブル事例を見てみましょう。
- 子供過ぎる消費者
- 相手が一方手ふきに悪いと誤解する消費者
- 非常に多い相互確認不足
- 自由の代償:契約自由の原則
不用心な契約は、誰も守ってくれませんよ。
実例-1:子供すぎる消費者
少し前に、こんなご相談をいただいたことがあります。
解約するなら違約金20%が必要と言われました。
この方、建築条件付きの広告を見て営業マンから「いつでも解約できますよ」と言われて、たった1週間ほどで契約してしまったとか。
それから、間取りなどを考えてもらっても、どうも希望の間取りにはならないので、解約しようとしたようなのです。
確かに言い分はごもっとも。
相手が口約束を守れば、この方は解約できます。そのこと自体は何も間違っていません。
でも、交わした契約書には、通常の不動産売買契約で書かれているように、解約をするなら違約金20%が書かれていた。
契約書に判子を押すときも、そういう契約条項があることを何のチェックも疑いもせず、営業マンの口約束だけを信じて契約してしまったのです。
営業マンがそう言ったのだから、ここに書かれていることは関係ないのだ・・とでも思ったのでしょうか。
確かに営業マンがする気もないいい加減なセールストークを言ったのは事実でしょう。
そして、相手が口約束を破った。
悪いのは相手だ・・
私は被害者だ・・
罠だ・・・・・と考えがちです。
その気持ちよくわかります。
でも、この世の中そうそうこの人の言い分が通るほど甘くはありません。
その口約束を書類にしておけば、相手がそんなことは約束していないとしらを切っても、書かれている書類を盾に、「おまえこう言ったじゃないか」と言うことができ、約束を守らせることができます。でもそんな紙切れもつくらずに相手を一方的に信用しても、相手がその口約束を知らないと言ってしまえば、口約束を証明する手立てはなく、残された契約書の条文が全てになってしまいます。
なぜなら、そういう口約束が当初にあったとしても、違約金20%が書かれた契約書に判子を押したと言うことは、その契約書を認めたことになるからです。
そして、私は、契約書の中身など知らない・・といったところで、自分が判子を押している以上、知らなかった、読まなかったというのは契約当事者であるその人の勝手なのです。そして、その中で自分に不利な約款を見落としても、それは見落とした当事者の落ち度でしかありません。
実は、こんな子供だましのセールスに乗ってしまう。
この程度の契約知識しかない消費者、子供過ぎる消費者が多いのです。
「安心、安全は、業界側がするものだ」という誤解を抱いている人も少なくありません。
「安心、安全は、自分で確かめないとダメなんだ」ということを理解していない消費者たちです。
確かにトラブルの多くは、一部のモラルのない業界自らが創り出していることは事実です。
でも、あまりに子供過ぎる、契約行為に無知な、不用心な消費者が、無用なトラブルを創り出していることも事実なのです。
実例-2:相手が一方的に悪いと誤解する消費者
以前、請負契約書に公庫の仕様書を添付して契約した方がいました。
といっても、この方が依頼したのではなく、住宅会社側がそれをつけていたのですが、この方は、公庫 仕様書に次世代省エネルギーの仕様が書かれているから、自分の住宅もそのレベルになるのだろうと考えていました。
見積書は、断熱材の種類は書かれていても、厚みは書かれていませんでした。
ところが、工事の終盤になって確認をすると、「次世代省エネ」ではないという。
よくあるのですが、この方の論法は、
「自分は住宅や建築の素人だ。だから住宅会社は説明をする義務があるのだ。説明をしない住宅会社が悪いのだ」という言い分なのです。
果たして法律ではそうなのでしょうか。
消費者契約法という消費者にとって非常に大事な法律があります。
その第三条に、
事業者は、(中略)契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
2 消費者は、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとする。
とあります。
つまりは、住宅会社は建築主に情報をわかりやすく説明する義務がありますよ・・と書いていると同時に、消費者も理解するように努めなければならないとも書いてあるのです。言い換えれば、説明を十分にしなかった住宅会社も悪いが、納得するまで確認をしなかった、理解しようとしなかった消費者にも応分の責任があるといっているのです。
その責任や義務の度合いは計れませんが、 「説明しなかったから相手が悪いのだ」という一方的な非難をしても、法律はこの人を救ってくれません。
この事例はトラブル現場で非常に多いのです。
「よくわからないが、大丈夫だと言われたので引き下がった」というケースもトラブル解決の場面で多く聞かれる言葉です。
そして、そのときは納得したつもりなのですが、実際は納得できていないので、後で何か別のトラブルがあったときに鬱憤として爆発します。というよりも、そういう小さな不満の集まりで最後に感情的な爆発を起こします。ひどい業者だと遺恨を残します。
このとき法律は、「どうして大丈夫なのですか。わかるように説明をしてください」という消費者が聞き返す、理解しようとする行為を求めているんですね。
結局こういう類のトラブルは、ダレが悪いのでもなく、当事者それぞれがいくらかずつの責任を持っているのです。
いい加減な説明でお茶を濁す業者も悪い。しかし、それを最後まで聞きたださない消費者も悪いのです。
非常に多い相互確認不足(住宅の二大トラブルとは・・)
前回、営業マンの「いつでも解約できる」という口車に乗って、契約書に書かれた「解約時は違約金2割」という文面すらチェックせずに契約してしまった話や、添付された仕様書の説明を良く聞かずに思い込んでしまった話などを紹介しました。
前者は、やや特異な、事案の少ない事例ですが、後者の類似ケースは非常に多いのです。
その説明の前に、今まで私が経験したトラブルの中の順位を紹介しましょう。
第一位は、違法建築、欠陥工事の類です。
これは、一方的に業者側が悪いのですが、事例としては非常に多いです。
第二位は、意外かもしれませんが、相互確認の不足によるトラブルです。
そんな話聞いていない。いや、言ったはずだといった事例を代表例に、お互いに曖昧な仕様のままに契約した。あるいは工事が進められた例で、上の二番目の事例も、建築主と住宅会社、双方の確認が不十分で、「わかってくれたのだろう」「このはずだ」という思い込みや、あるいは建築主からすれば、説得された感のまま工事が進められた場合です。
これらの事例では、わだかまりが残ったまま完成を迎えますから、最後に感情が爆発します。
この2つのケースが住宅トラブルの二大トラブルといっても過言ではありません。
その次は、順位などほとんど関係無く、契約期日よりも工期が遅れた、倒産したといった場合で、これらも非常に少数派です。
そして、意外なのは、契約書や契約約款、あるいは図面と言った紙に書かれたものの約束を違える・・という事例はほとんど無いのです。
よく契約書の内容をチェックしなければ・・と考えがちですが、書かれていることを守らないというトラブルは実はほとんどありません。
むしろ、書かれていないことのトラブル。
書かなくてもわかっているだろうというトラブル。
了解してもらったつもりが誤解したままだった。
という相互の誤解不足やコミュニケーション不足がほとんどなのです。
勿論この中に、相手を無条件に信用してしまい、自分の意に反したものができたということも含まれています。これも言い換えれば確認不足です。
そして、第一位の違法建築、欠陥工事は一方的な破業者側の過失ですが、第二位の問題は、実は半分は建築主の発注そのもの、打ち合わせ過程そのものに問題があるのです。
自由の代償、契約自由の原則
私たちはどこに住むか、どんな学校に行くのか、どんな仕事に就くのか、何を買うのかといった、義務教育と納税の義務以外の行為のほとんどが自由です。それを自由主義というのでしょう。ほとんどを自らの能力と相談しながらですが、自らの自由意志で決めることができます。
そして、この自由社会の大原則を前提として、「契約自由の原則」というものがあります。
自由が法律で決められていないように、この「契約自由の原則」も法律が書き示しているものではありませんが、社会の経済活動の基本的な原則となっていますし、法律を作る際の大前提となっています。
しかし、ほとんどの人は、自由を謳歌すれども、この「契約自由の原則」を本質的に理解していることはありません。
当サイトにも記事がありますが、簡単にご紹介しておきます。
契約をするといったことは、何か形式が決まっていたり、相手も心得ているはずだから、相手の言うとおりに契約をしても大丈夫だろうと思っている方が非常に多いのではないでしょうか。なぜなら、私たちが今まで生きてきた中で、そんなに難しく契約書を[…]
締結自由の原則 | 契約をするかしないかは当事者の自由意志で決められるという原則 保険契約をする、しない。家を買う、買わないという決断も当事者の自由だと言うことです。 |
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相手方自由の原則 | どんな相手と契約するかは当事者の自由であるという原則 簡単に言うと、ものを買うのに、どの店で買うか。保険の契約をどの保険会社でするか。住宅を建てるときにどの住宅会社と契約するか。これらは当事者の自由であると言うことです。 逆に、売り手も買い手を拒否することもできます。あなたは弊社の資格要件を満たしていないので、ご遠慮くださいと相手が言うことも自由です。 |
内容自由の原則 | 契約内容をどんなものにするかは当事者の自由であるという原則 一部の商品だけを買おうが、住宅で言えば分離発注をして建てようが自由です。 |
方法自由の原則 | 契約の方法は自由である、という原則 よく口約束でも契約は成立するのだといったことを聞きますが、これはこの原則が適用されているからです。そのため、契約書を交わさず、口約束で契約しても契約は成立します。建物の詳細を決めてから契約しても自由です。白紙委任のように建物の仕様書もなく、坪単価だけで契約するのも自由です。 |
これをよく読んでみると、誰もが上から3つまでの原則は謳歌しながら家造りを進めています。 自由に住宅を買う(建てる)かどうかを決め、自由に住宅会社を選び、自由にプランを作ります・・・。
でも、最後の「方法自由の原則」を忘れている人が多くいます。
未だに、建物の仕様も確認しないまま、立地の良さと坪単価だけで契約しようとする人がいます。年に2.3人は現れるのですが、そういう人に私が常に言う言葉があります。
『あなたは自動車を買うときに、排気量もタイヤやエアコンの種類も確認せず、シートがファブリックかレザーかということすら確認せず、ただただ、自動車1台200万円の自動車というだけで契約していたのでしょうか』
上の3つの自由は謳歌しつつ、最後の詰めである「契約」をいい加減にしてしまう。
前回ご説明したAさんや、次の人も結局は、契約の自由だけを謳歌し、それにともなう自らの責任を自覚しないままに契約してしまい、いわゆる「墓穴」を掘ってしまったのです。自らまいた種です。
住宅の世界に「安心・安全」はありません。
業界が、「安心・安全」を提供しているのではありません。
不用心な契約をしても、何も証拠がない口約束の取り決めをしても、相手が良心的であれば、その約束は履行され、相手が不誠実であれば履行されないという、いわば「運」頼みの契約をしたに過ぎないのです。
空気のようになってしまった『自由』
でも、「契約自由の原則」という大原則を理解し、自らが自らを守らなければだれも自分を守ってくれないという「方法自由の原則-契約の方法は自由であるという原則」を理解して行動している消費者は本当に一握りです。
そして、「運悪く」不誠実な業者と契約したために、「運悪く」トラブルが起こるのです。
でも、そういう不誠実な相手を選んだのも、実はご自身なのです。
あなたは賢明な消費者ですか。運任せの消費者ですか。
どちらを選ぼうと他人に迷惑がかかることはありませんよ。
そして、この選択すら、あなたの自由なのです。
スーパーの商品は安心だ。日本の家電製品は安心だ。といった事は、企業が「安心・安全」に取り組まなければ消費者が不買行動を取るから行っているのです。つまり、「安心・安全」を提供することが企業活動に不可欠だから行っているに過ぎません。
ひるがえって住宅業界、不動産業界は全国にそれぞれが数万社という膨大な数の会社が存在しています。そのほとんどが零細企業です。そういうところでは、どこかの会社の商品や工事あるいは対応が悪くても、不買行動につながることはありません。そのことが企業をして「安心・安全」に対して取り組む強弱を生み出します。
取り組みの強い会社は、たとえ口約束であれば、その約束を誠実に守ろうとします。しかし、取り組みのほとんど無い会社は、結果として買い手不在、自社中心主義の不誠実な会社となりトラブルを起こすのです。
そういう意味での「住宅の世界に「安心・安全」はないのです。