基礎に雪がかぶった。その2。。。
事件の概要
- 甲信越地方
- 軸組工法、戸建て住宅
以前は関西地方の基礎に雪が積もった事件をご紹介しましたが、今回の事件は甲信越地方のある県でおこった事件です。
建築会社は、ローコストを売り物とするフランチャイズチェーンの加盟店でした。
余談ですが、Wikipedia(任意の善意者によるネット上の百科事典)によると、甲信越地方とは「中部地方の東部にある、山梨県、長野県、新潟県の3県の総称。それぞれの令制国名である、「甲斐」、「信濃」、「越後」の頭文字をとった名称。 」・・・らしいですね。
事件発生の経緯
すでに契約を結び、いつ着工しても良い時期だったのですが、直近の天気予報が降雪と気温低下を注意していたため、工事はしないだろうと思っていました。しかし、念のためと仕事の帰りに現場近くを夜走ってみるとすでにコンクリートが打たれて、型枠に雪が積もっていた。(施主談)
当時、最低気温は氷点下2度を記録していたが、現場監督の説明では「冬用のコンクリートを使ったので大丈夫だ」という説明であった。(施主談)
そして、下の写真(左)は、それから3日後の基礎の様子ですが、まるで霜がコンクリートに出来たかのように筋状の型がくっきりと残っています。
釘でコンクリートを削れば、写真(中)のように簡単に削れているところもあるような状態でした。そして、何を思ったのか基礎には不必要な養生シートがかけられていました。
そして、このような状態で本当に基礎が大丈夫かどうか心配になり、今後の交渉もどうすればよいのかを含めて、当方のサポートサービスを受けたいと連絡をいただきました。
当面の対処と工事技術部長の言い訳
その後、あまりに明確に雪が積もった証拠写真もあったので、コンクリート打設後28日目にシュミットハンマー試験をやって強度測定をし、安全を確認してから工事を再開しましょう、というところまでは合意に達したのですが、
しかし、
そこからどの基準をクリアすればOKにするのかについて、その建築会社の自己弁護しか知らない工事技術部長(一級建築士)の「呆れるほどの自己保身説明」が続くのでした。
- 目視ではきれいなコンクリートで異常はない、と説明。
- しかし、釘を使って削れることには一切言及無し。
- 基準法ではコンクリートは強度12N/mm2以上でよく、24N/mm2をコンクリートを打ったのだから問題ない。(注:法解釈の間違い)
そして、これが社内規定だとか、有りもしない規定を説明しつつ、あまりに不自然でいい加減な説明だったので、その後フランチャイズの本部にコンクリート強度の事を尋ねると、『今の時期であれば27N/mm2のコンクリートを使わなければダメ。基準強度も21N/mm2です。』という回答が帰ってきました。
それを工事技術部長(一級建築士)に問いつめても、曖昧な返事を繰り返すばかりだったのです。
そして、フランチャイズ本部は、強度は21N/mm2以上必要で、いまなら27N/mm2のコンクリートを打たなければいけないと言いながら、加盟店の建築会社は、強度は12N/mm2でよいのだ。といい、コンクリートの24N/mm2のものを打っていたのです。
他の違法工事の発覚
そうこうした押し問答が続いている間に、建築主が依頼した地元の建築士も現場をチェックし、その結果、底版コンクリートの厚みの不足や、鉄筋のかぶり厚不足などの法令違反の事実も見つかりました。
写真(上)は、底版の厚みが13cm程度しかなく、法規で必要な15cmに達していない。(基準法違反)
写真(中)から3番目は、写真上側に見える断熱材をのぞくと基礎幅は10cmしかなく、基準法違反の基礎幅
写真(下)は、鉄筋のかぶり厚不足(基準法違反)
と、いろいろな違反事項が何カ所か出てきたのです。
悪事はさっさと隠さないと分かってしまいますね。
きっと基礎屋は、運が悪かった。サッサと埋め戻しをしてしまえば分からなかったのに・・と思っていたかも知れません。
あるいは、法律すら知らないで基礎工事をしていたから、自分たちが違法な工事をしていたことすら気がついていないのかも知れませんが・・。
シュミットハンマー試験当日の中止と再検査・・・
さて、そうこうしている内に、コンクリート打設から28日が経ち、シュミットハンマーの試験日が来たのですが、その現場に立ち会った建築主が依頼した地元建築士の『違法部分があるのだから、今更強度測定をしても意味が無い』『だから基礎をつぶして再工事しかないのだ』という一方的で不注意な発言のために紛糾し、その日のシュミットハンマー試験は中止になってしまいました。
しかし、その2日後、建築業者が単独でシュミットハンマー試験を行い、その結果は、基礎の全域に及ぶ20箇所で検査し、すべてに30N/mm2以上の強度が出ているという信じられないほどの好成績だったのです。
もちろん、18あるいは21N/MM2以上の強度が出ていれば問題ありませんし、温度補正などをした30N/mm2程度のコンクリートを打ち、養生をしっかりしていれば、冬季でもその様な結果が出ても不思議ではありませんが、打設直後の夜に雪があれだけかぶっていたのに、このような結果が出たことは建築主も、私も信じられませんでした。
しかし、これには、あるからくりがあったのです。
からくり:もっとも強度の出る計算方法を採用した
その理由はシュミットハンマー試験という方法は、その機械の反発数をある計算式に当てはめて計算し、その計算結果をコンクリートの強度(圧縮強度)と推定するものです。
この計算方法には、日本建築学会、日本材料学会、東京都式など代表的な式があり、同じ反発数でも、というよりもシュミットハンマーからでる反発数自体は機械が変わらない限り変わりませんし、機械が正確であれば機械を変えても反発数はほとんど変わりませんから、どの計算式を代入するかで答えは計算式の数だけあるという一種のいい加減さがあります。
ちなみに、シュミットハンマーで30という反発数があったとすると、
- 日本建築学会式では、31.9N/mm2という強度になり
- 日本材料学会式では、21.1N/mm2という強度になり
- 東京都式では、19N/mm2という強度になるといういい加減さが伴っています。
今回の場合は日本建築学会式を採用したために、計算上は最も高い強度となったのです。
日本建築学会式で計算すると、実態に近いと言われている日本材料学会式の実に1.5倍もの強度になるという矛盾が未だに建築学会で残されているのです。
(これも基準法がザル法と言われている一例です)
しかし、一般的に材料学会式が実態に最も近いと言われていますが、公に3つの計算式がある以上、もっとも強度の出る計算式を用いたからといって、使った計算式がおかしいのだ、とも言えません。
そういう意味では、シュミットハンマーというのは、使い方を誤ると、あるいは悪意を持って使うと、強度も出ていないのに出ているという矛盾した結果になりかねない危ない道具でもあります。
たぶん、実態に近い「日本材料学会」の式で計算すると本当の強度は、21N/mm2前後だったでしょう。
注:シュミットハンマー自体は、難しい道具ではなく、写真のようにコンクリートに道具を当てて打ち込み、その時に出てくる数字(反発数)を上記の計算式に入れるだけである。
そのため、どの計算式を使うかで、結果が大きく変わってくる。建築会社は強度が大きく出る「日本建築学会式」を使いたがり、公正な会社では「日本材料学会式」を使う。
注:そういう意味で、コンクリとの強度は、コアを抜いて実際に圧縮強度測定をするのが最も正確ですし、生コン会社などでは、自社で圧縮試験機を持っていますから、実際の強度と自社が持っているシュミットハンマーの強度差の補正を計算した自社のシュミットハンマー用の計算式を作っている会社もあります。
注:住宅のような小規模な建物以外は、コンクリート打設後1週間目、4週間目のコンクリートの強度測定をする場合が多く、1週間目の強度は生コン会社の圧縮試験機で計り、4週間目の強度測定は公的試験所に依頼するケースがほとんど。そのため、生コン会社では圧縮試験機を工場内試験室といったところに持っている。
強度は出ている。悪いところは何もない。工事続行を認めろ。
そして、その3日後、建築会社と建築主の間で話し合いが持たれました。
建築会社側の言い分は、『シュミットハンマーによる強度検査を実施した結果、平均32.6N/mm2を確保しており、現状の基礎にて工事続行する』というものでした。
建築主は、違反事項や凍害、風雪によるひび割れの発生などを主張しましたが、『本件はフランチャイズ本部並び加盟店の決定事項であり、結果が変わることは無い』と言われました。
また、凍害と受けたと思われる箇所については、
- 目視で確認したが全く問題ないレベル
- 基礎は家の重量を拡散して支持するので、レベリング付近に凍害があっても何ら問題は無い
- 必要ならば「はつって」修正するが、その必要はないレベル
- 凍害は表面だけである
そして、工事続行の条件を飲むのであれば不安箇所を立会いのもと再検査するか、条件を飲まないのであれば、話は平行線でまとまらないので再検査はしない。
つまり、「互いに妥協点をみつけなければ、平行線のままで工事は中断のまま」。だから建築主にも歩み寄れということなのです。
先方:養生不良など工事の過程のミスは認めるもの、結果論として問題は無し。 当方:素人目にみてもあきらかに凍害を受けている。工事のやり直しを要求。
と完全に平行線に終わったのです。
フランチャイズと加盟店(建築会社)側はその他の法令違反には触れず、 基礎強度が部分的に出ていたか否かの結果論だけを主張します。
言い換えれば、
建築会社の言い分は、強度は出ているではないか。凍害の影響など無い。底版の厚み不足やかぶり厚の不足などは、補修すればいいのだ。その補修もおまえが工事続行を認めない限り、打合せすらしないぞ。。といういわば絶対に非を認めない一方的で高圧的な展開だったのです。
結局、建築主としては、現時点で工事続行を受託する訳にはいかず、 物別れとなってしまいました。
急転直下 解体、契約解除へ
コンクリートは強度が十分に出ている。基準法違反の部分など補修すればいいのだ・・と一点強気になった会社に対して、それでも基礎のやり換えをしてもらいたい建築主は、再度、現場で話し合いを持つことになりました。
参加者は、建築主、私、建築会社、フランチャイズ本部の技術者(品質管理)でした。
ひととおり、基準法違反の基礎があること、シュミットハンマー試験も複数の計算式があることなどを説明しましたが、決定力に欠けます。
そして行ったのが、実は「プレゼンテーション」別な言い方をすれば「パーフォマンス」だったのです。
それは、実に簡単な事ですが、力を入れずに「基礎の上面の角をハンマーで叩く」そうすると、ポロポロとコンクリートが欠けて行くではありませんか。
『おいおい。あなた方のコンクリートというのは、力を入れずに叩けば、欠けていくコンクリートのことか・・・・』
その後一転、いくら抗弁をしてみても、コンクリートが欠けるという事実はどうしようもないと思ったのでしょうか?急転直下、基礎を解体し、更地に戻して今までいただいた代金もご返金します。という返事が返ってきたのです。
要は更地に戻し、前払い工事費も返す契約解除です。
100万の技術論も、目の前の真実(衝撃)をかばいきれない
なぜ、基礎の上部が欠けていくのか。
確かに、基礎強度の実態は、強度の計算方法に異議はあっても、実態に近い日本材料学会式で計算しても少なくとも21N/mm2以上の強度が出ています。
たぶん、雪が直接コンクリートに積もった基礎上部だけが凍結を起こし、軽く叩いても欠けるほどの強度しか無かったのでしょう。
技術者は技術に走りがちです。この会社は基準法の隅っこにある法律を探し出してきては、いろいろな技術的、法律的抗弁を垂れていました。
20箇所以上にも及ぶ場所でシュミットハンマー試験をし、強度を実証したつもりでした。
軽微な法令違反だから是正すればいいのだとも言いました。 確かにそうでしょう。
しかし、そんな机上の技術論、法律論、是正論よりも、「叩けば欠ける」という誰の目にも衝撃的な事実の方が強かったのです。
そもそもの問題
気の緩み:春の訪れ一歩手前の気の緩み
この事件では3月13日にコンクリートを打設しています。
当時の奇襲調の記録を見ると、3月初旬、平均気温が少しずつ上がっていく時期で、5日頃までは最低気温が0度近辺を行ったり来たりしていたが、 7.8日と少し気温が上がり、10.11日は、春のような陽気の日だった。しかし、気象予報では13日にかけて寒波の再来を告げており、当日の12日には、気温が10度近くも一気に下がっていた。そして、翌日13日の最高気温は1.2度であった。
コンクリート打設の前日、前々日と急に暖かくなったため、一瞬の気のゆるみがこの事故を招いたとも言えます。
そして、気温が急減に下がったとしても、雪が降っていなければ、コンクリートの凍結までは起こらなかったでしょう。
不運といえば、不運な事故です。
不信の連鎖:自己弁護、会社防衛が仕事となる役職者と不信感の高まり
何かトラブルがあれば、その根本原因を究明しないで、トラブルの火消しにだけ専念するタイプの「火消し」の役目が役職者の役目だと勘違いしている役職者がいます。
そして、そのタイプの多くは会社の技術力を上げたり、社員教育を徹底させるなどの改革を進めるより、自己保身や会社防衛にしか興味がないようです。
今回も典型的な見習ってはいけない役職者の見本のような人でした。
三菱自動車の欠陥隠し同様に、大手でさえ役員が自己保身、会社防衛に走るのですから、小さな企業ではなおさらです。
このような事例はこの業界だけでなく会社組織と人間の本質的な問題なのでしょう。
立場の逆転:一点突破で笠に着る業者
今回も交渉では、強度測定の結果を武器に、もう文句は言わせないぞ、という圧力をかけてきました。 まさに笠に着る状態です。
でも交渉時にこのような仕草を見せる業者は山といます。
特徴的なことは、自社の不利になることには言及せず、有利なことだけを声高に説明する会社あるいは人です。
このようなタイプと遭遇した場合は、消費者側が冷静になり、相手の説明に引きずり込まれないことが大事です。
被害者は消費者
ローコスト系のフランチャイズ加盟店に多い傾向として、建物のローコスト化だけに主眼をおくため、他の設計能力や施工管理をなおざりにしがちだという傾向があります。安くするためにどうするかに一生懸命でも、品質の良い物を作ろう、なんて言う発想はしてはいけないかのような会社もあります。
今回の事件は、現場監督がたった1日だけ、コンクリート打設を伸ばす指示をすればよく、仮に起こってしまったとしても、工事部長が素直に気持ちで物事を見定めればトラブルやその長期化は防げたのです。
あるいはいたずらに法律や技術資料を捜すよりも、実際のコンクリートに触れれば良かったのです。目視といいつつ、「眺めるだけ」のことしかしなかったのがトラブル長期化の原因の一つです。
また、百歩譲って、若い現場監督だから凍結事故はやむを得なかったとしても
- 基礎幅や、底版厚の不足、かぶり厚の不足など基準法に違反する工事
- 事故後のいたずらに企業防衛だけに終始する対応
を考えれば、どう考えても建築会社自身が招いたトラブルなのです。
そして、こういう会社には
「私は、ただ普通に家を建てたいだけなのに、何でこんな苦労をしなきゃいけないのでしょうか?」
という建築主の声は、この会社には届かないでしょう。
そして、今回の教訓など忘れて、いや教訓とも思わず、ただただ、面倒な客がいた程度の話として、今でも平気で氷点下になろうと雪が降ろうと、コンクリートを打っているのかも知れませんね。
そして、顧客が抱く不安の一言は、消費者がギャフンと言うほどの論理で頭から押さえつけながら仕事をしているのかも知れませんね。
「情けない会社です」
自己保身のなせる技