ケース2のお話です。
ある方が耐震補強をしたいと言うことで、工事会社にその方の自宅まで来てもらい、私が立ち会う場面がありました。見積もりを依頼したのは、社長一人の小さな小さなリフォーム専門の会社です。
私が、「御社では、今までに耐震補強はどの程度経験されていますか」と聞くと、
「はい。4.5件しています」という言葉の中に、やや頼りなさげな雰囲気を感じてしまいました。
「本当かな。キチンとした工事をしているのだろうか」といささか疑心暗鬼ながら、
「本当ですか?」と、そんな失礼なことは聞けないので、
「耐震補強はなにでしているのですか」と聞くと、
「いつもウチは、構造用合板を使って、N50の釘を使っています」という返事。
私は前半のやや曖昧な返事から「N50の釘を正確に知っているのだろうか」と一抹の不安を覚えつつ、
とりあえず見積もりの価格は良かったので、その業者に決めて契約完了。しかし、一抹の不安があるので、「耐力壁に用いるビスや釘には、一定の規則があるのはご存じとおもいますが、キチンと使い分けてください」といったFAXを入れておきました。
■Nが付けば、良いと思っていた
そして、工事がスタートして、依頼者が写真を送ってきたのですが、そこに写っていた釘はなんと、N50の釘ではなく、SN50だか何かの機械用の釘(自動釘打ち機用の釘)の呼称だったのです。
そして、釘を太さを調べてみるとN50の釘が胴径2.75mm必要なのに対して、その釘の胴径は2.2mm程度だったのです。
つまり・・・・!!。
この社長さん。
N50の釘とは、SN50であれ、FN50であれ、SCN0であれ、とにかく釘の製品記号の中にNという数字が入っていれば、それがN50の釘だと思っていたようなのです。
要は、うろ覚えのまま、間違ったことを正しいこととして思い込んでいたのです。
■原因は「うろ覚え」
どうして間違った施工をしてしまったのでしょうか・・。
原因は「うろ覚え」です。
自分はそれが正しいと思っているので、誰か違う人から指摘されるまで間違いに気づかない。誰でも、会話の中で「うろ覚え」を「ウル覚え」と間違ったまま覚え込む例の一つですし、以前、麻生総理が「未曾有」を「みぞうゆ」と読んで大ひんしゅくをかいましたが同じ話です。
間違っていても、本人は正しいと思って使っているし、間違いを知っている人から見れば、間違いとわかっても、よほど、時間があるとか、懇意な関係でない限り、会話の中でいちいち人の言葉の間違いを指摘しないですよね。
今回の工事も同様です。 N50の釘を使うと言われたものの、「うろ覚え」のためにこのような間違いがよくあるのですが、「あなた、まさか間違って覚えていませんよね」と疑った話は初対面では出来ません。
だから、間違った知識のまま工事をしていたのです。
■その後の顛末
なかなか、「自分が間違っていました」とは、面と向かって言えませんが(そんな正直なことをいうと今までの工事が全て間違いだったとなってしまいますから)、その後、この業者さんは自分の間違いをカバーしようと思ったのか、普通であれば自動くぎ打ち機でバシャバシャ釘を打てばいいものを、釘のめり込みがあってはいけないと、一本一本カナヅチで釘を打って行くという丁重な工事をされたそうです。
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