何か説明がおかしい。何か工事がおかしいと感じる。
こんな時、多くの人は自分が集めたいろいろな角度からの情報(主としてインターネット)をもとに、おかしいと感じはじめます。
そして、相手の言っていること、していることが間違いだ。。と気づくと、「おかしいですから直してください」と言うことになります。
でも、そう簡単に直してくれるわけではありません。多くの場合、「これで問題ありません」的な返事が返ってくる場合がほとんどですし、あるいは、よく理解出来ない難しい説明を聞かされて煙に巻かれたり、「今までこの方法で役所からも指摘を受けたことはありませんよ」といった説明を受け、「やっぱり、私たちの思い違いなのだろうか」と弱気になってきます。
実はこのとき、多くの人は、ある重要なポイントを見逃しているのです。
それは、なぜ、間違った工事や方法をしているのだろうか・・ということを考えていけば分かることなのですが・・・・
相手から返ってくる返事は、「素人が何も知らないで、なにを言ってるんだ」という意味の返事ではなく、
「俺たち、今までこれでやってきたぜ。」
「間違いだと指摘されたことはないぜ」
という意味の返事なのです。つまり、相手にすれば「何を根拠にそんな変なことを言うのだ」「俺たちはこれでずっーとやってきているのに」という気持ちなのです。
●工事編:正しいと思いこんで工事をしている
こんな事例があります。
「サイディングの下の水切りを、防水シートの下に入れずに、胴縁の上から取り付けています」
こんなご相談をいただき、現場監督とも電話で話をし、その後の顛末を聞くと、その会社では、ずっとその方法でやっていたようなのです。
もちろん、その方法が正しい方法と思ってのことで、故意に間違ったり、ダメな方法だと知りつつ施工しているのではありませんでした。
基礎の底盤配筋のかぶり厚を4cmの状態で施工している会社がありました。
これも話を聞くと、「ずっとこれでやってきて、指摘を受けなかったのだが・・」といいます。
これも、かぶり厚の確保に使うサイコロという道具は、写真のように四角形をしており、1つのサイコロでそれぞれ4cm、5cm、6cmの辺を持っているため、特にどの面を使おうと作業に影響はありません。
これも、間違ったまま覚えて、長い間そのような方法が正しいと思って工事をしていた典型例です。
●設計編:知らない!!
設計などで多いのもやはり「間違ったまま覚えてしまった」というケースです。一番多いのは、耐震等級3の計算方法です。
例1)耐震等級3は、基準法の1.5倍の地震に耐えられる、という説明だけを読み、基準法で計算する量の1.5倍の耐力壁を作れば、それが耐震等級3だと誤解していた。
例2)基準法だけの耐震計算(1階)は、瓦屋根の場合、「床面積x31」なのですが、耐震等級3の場合は「床面積 x 69 x K値」という計算になります。ところが、「69」という数値を床面積にかけるだけで計算しています。上の例1)の時よりも進歩するのですが、K値をさらに掛けることをしていないのです。
次に多いのがホールダウン金物などの計算です。そのための法律があり、そのための計算式があることすら知らない。あるいは知っていても間違ったまま覚えて、いつまでもそれで計算している。といったケースがあります。
木造2階建ての住宅では構造関係の審査は建築確認を提出しても行われていません。そのため建築確認などを提出していても誰も間違いを指摘しないために、間違いに気づかないのです。
そして、この人達は、このような間違いをずっーと繰り返しています。
●営業編:ごまかす!!
営業関係でもっとも多いのは、建築条件付きの土地の契約なのに、土地と建物両方の価格から仲介手数料を請求するケースでしょう。この多くの場合は、買い手の無知につけ込んで故意に違法な仲介手数料を取ってやろうと考えている場合がほとんどです。上の2つのケースとは少し違います。
●正しいと思いこみ、その方法で長年やってきた
ここまでの説明で気づかれたことはありませんか。
それは、工事や設計の面を見れば、「その工事の方法、その設計の方法が正しい・・と思って長年やってきた」ということなのです。
こういうときに建築主が口頭だけで説明をして、是正を求めても、冒頭のように「長年これでやっているのに、なにを変なことを言ってるんだ」と思ってしまうだけなのです。
●プロ VS プロ
あるいは私のような同業者の専門家から言って欲しい・・という話もよくあります。プロ対プロだから話が通じるだろう、と思って依頼されるのですが、でも、これも口頭で言えば、「俺は昔から、この方法でやってきて文句を言われたことは無い」と言われるのがオチです。
なぜなら、
この話は料理人の世界に当てはめればわかりやすいですね。
「料理のさばき方が間違っているょ」と同業者から言われても、「俺は昔からこの方法でやってきた。味について客から文句を入れたことはない。同業者であろうが、何を言ってるんだ」という反発しか返ってこないのです。
●是正を求める方法
では、長年染みついた「間違った方法」をただすにはどうしたらよいのでしょうか。
方法はたったひとつ。
懇切丁寧な2時間の説明よりも、“権威のある1枚の紙切れ”なのです。
彼らの思い違いをただすには、彼らよりも『上位の者』、『偉い人達』が示した指針なのです。
具体的には、施工面では、大きな建材メーカーが作っている標準施工法であったり、公的な機関や業界団体などが書いた施工の説明書といったものですね。
設計面で言えば、文字通り国や公的機関が書いた法律の解説書や運用書です。これらの資料を渡して間違いに気づかない業者はほとんどいません。
そして、故意に違法な仲介手数料を請求しようとする仲介業者に対しても、法律文そのものを渡すことが一番効果のある方法です。
●相手のプライドと面子(メンツ)
このとき、もう一つ忘れてはならないのが、相手の持っているプライドと面子です。相手は、どう考えても素人であるあなたよりも「プロだ」と認識していることは間違いありません。それなりのプライドあるいは面子(メンツ)といったものがあります。
素人と思いこんでいる相手から、自分が間違っていることを指摘されたとき、 そのプライドは引き裂かれ、自分の面子(メンツ)を保とうと悪あがきをする人達がいないではありません。
典型的なのは、『そういう方法もありますが、私たちの方法だって間違っていないのです』とやたら正当性を主張する場合で、これは設計上の間違った方法を設計者に指摘した場合に多く見られます。
反対に、工事関係者に工事方法の間違いを指摘した場合はむしろ、「私の知らないことを教えてくれてありがとう」と感謝される方が多いですね。
そして、仲介業者は意図的にやったことがばれた場合が多いのですから、バツの悪さを隠すために、「あんただけに特別にそうしてあげるわ」といった表現で話を終わらせ、違法性を認めることは少ないですね。
・プライドの高さで素直に間違っていましたと言えない設計者
・理を説けば、比較的素直に聞いてくれる施工者
・バツの悪さを隠そうとする仲介業者
というのは多く見られるその後の行動でしょうか。。。。。ねぇ。
いずれにしても、口で説明しようとしても相手は納得してくれません。
あなた(素人)の数時間に及ぶ説明よりも、彼らの長年の経験の積み重ねからくる「間違ったことはしていない」という意識の方が強いのですから。
そして、相手の長年の積み上げられた間違った意識を打ち破るには、言葉ではなく、証拠なのです。
このことを知らないと、あなたの主張が正しくても敗北と挫折感を味わうことになるのです。ものはもっていきよう。人は動かしよう。の典型例ですね。。。。
つまり、アプローチを間違えるな!!と言うことですね。
■資料例
・土台の防水シートの張り方が間違っていたときの一例
下のような差異でイングメーカーの資料などを提示すると、間違い気づきに効果的。やはりメーカーの指針を間違っているのだ・・とは言えない。
・基礎のかぶり厚が間違っていたときに使った資料の一例
これも少し解説を加えれば分かる話で、やはり、国が示している指針を間違っているとは、絶対に言えないのです。
相手の間違いを正すときは、このような資料の使い方が効果的です。そして、相手もプロなのだから説明すれば分かるだろう・・などとは決して思わないことです。 |