- 『面で抵抗する強い壁』
- 『木造軸組+構造用面材 高耐震構造』
- 『地震や外力に強いモノコック構造』
- 『耐震構造です。(構造用面材による強い耐震力) 』
といった表現で構造用合板などの面材耐力壁を用いた強い家をイメージさせる広告があります。
構造用合板だから強い・・という事は無い
地震に抵抗するのは、柱ではなく、耐力壁と言われる壁です。そして、耐力壁は木造の軸組工法や2X4工法だけに限らず、鉄骨プレハブ工法にも設けられて言います。
その耐力壁の強さを並べてみると下図1のようになりますが、軸組み工法の構造用合板が格別に強いわけではありません。筋交いでもたすき掛けで使えば構造用合板よりも強い耐力壁にすることが出来ます。
しかし、一つだけそれらの広告に共通なのは、2X4工法と同様の面構造なので強いのだ、と言っています。
たしかに、軸組工法と2X4工法を比べれば、サポートサービスの事例でも例外なく2X4工法の方が耐震性は高くなっています。(*2)
*2:サポートサービスでの設計図に配置された耐力壁の量を比較すると、軸組み工法の平均は、耐震等級2前後、2X4工法では等級3前後が平均像となっています。
材料ではなく、壁で比較すると・・
しかし、材料ではなく、壁として比較をすると実は大きな違いがあるのです。
下図のように軸組工法で構造用合板などを使った場合、倍率(壁の強さ)は、2.5しかありません。
しかし、2X4工法の場合は、外壁の構造用合板と室内側の石膏ボードの両方を耐力壁として使えるため、壁としての倍率(壁の強さ)は、実に4.5にもなっているのです。(*3)(*4)
よく構造用面材を使った広告で、面で支えているから強い、あるいは2X4工法と同様の強さを持っていると言うようなイメージを与える広告がありますが、単に構造用合板を使ったから、強い・・・なんて事は決して言えないのです。
それは、上の筋交いを含めて耐力壁の強さの比較をみても同様ですね。
*3:軸組工法で室内側の石膏ボードを耐力壁として作ることは、工法の仕組み上非常に難しいために、どの会社もほとんど行っていません。(準耐力壁としては可能)
*4:外壁に構造用合板と筋交いを併用しているタイプの壁では、倍率は2X4工法と同じになります。
誤解を誘導させる広告実例
下の広告は、とあるホームページにでていた広告の一つですが、これを見ているだけだと、あたかも2X4工法の強さと、軸組工法の構造用面材を使ったSW工法の強さが同じなのだと錯覚を起こす広告です。
また、同じ外壁という条件で比較すれば 、上記のように2X4工法では普通は4.5倍の強度があるのに、わざと単体の強度で比較しているのです。それも普通の2X4工法では使われていない低い倍率の材料でわざと比較しています。
(通常の2X4工法では、図1の倍率3.0又は、より強度のある倍率3.5の構造用合板が使われています・・厚みと級数の違い)
結局、上段の説明のように、壁として2X4工法と比較すれば、SW工法など構造用面材を使った耐力壁は2X4工法の6割程度の強さしか持っていないのです。 (2.5:4.5=0.55:1)
この辺りは、正直なところ大企業でありながら、何も知らない消費者に錯覚を与えようとする情けない広告手法ですね。
そして、これも広告をそのまま信用してはいけない良い例です。(*5)
*5:広告手法の中でも多いのが比較広告ですが、その比較対象の先は、広告側が自分に有利になるように比較対象先を選んでいるため、比較対象先が適切なのかどうかが問題なのです。
面材耐力壁の錯覚
また、『弊社は強固な面材耐力壁だけで耐震性を確保しています』といっている会社ほど、実は耐震性が非常に低い、という信じられないケースが多いのです。
なぜ、そうなってしまったのかはわかりませんが、サポートサービスの事例でも、『この会社は構造用合板だけで耐力壁を使っているようですが、大丈夫でしょうか』という建築主からの疑問に、平面図を見てみると、確かに構造用合板を使っているものの、外壁ばかりに多用しているために、結果として耐震性が低くなっている、という事例が多いのです。(注:外壁に合板と筋交いを併用した構造の場合は、このようなことはありません)
技術的なことを知らない営業マンは仕方ないとしても、設計者もその言葉に洗脳されてしまったのでしょうか。
いままでの図1あるいは図2の説明のように、同じような外壁面を持つ建物であれば、軸組工法で構造用合板などの面材耐力壁だけで作られた建物と、2X4工法で作られた建物では、その外壁の強度は6割程度しか無いのは明らかですね。
下の例は、外壁に構造用合板を主として配置し、それで不足する耐力壁を筋交いで追加しただけの軸組み工法(図3)と、全く同じ間取りを2X4工法で普通に設計した場合(図4)の耐力壁の配置です。
そして、その2X4工法と同程度の耐力壁を確保しようとすれば、どの程度の筋交いが必要かを示したのが図5。
図6は、この建物を総2階の建物として、耐震等級3に必要な耐力壁を配置したものです。
それぞれの答えは、下図7のように、単に外壁に構造用合板を配置した場合は基準法を少しクリアした程度ですが、2X4工法では、いとも簡単に耐震等級3をクリアさせることが可能です。
また、2X4工法と同程度の耐力壁を確保しようとすると、図5のように壁という壁にたすき掛け筋交いを入れなければならなくなります。
耐震等級3の必要壁量を満たすためには、図6のようにたすき掛け筋交いを相当数入れる必要があることもわかりますね。
面材耐力壁のメリット
面材耐力壁の本当のメリットとは何でしょうか。それは・・・
- 筋交いなどと比べて、ねばり強く地震に対するより長く踏ん張れる
- 外壁にモルタルをする場合などは下地が必要だが、下地と耐力壁を兼用出来合理的である
- 断熱材を入れるときに筋交いなどが無いため、断熱材をきれいに入れられ、断熱効果が高くなる
という部分でしょう。
事実、高断熱・高気密を謳っている軸組工法の会社では、外壁には構造用合板だけを使い、筋交いは内部の壁に設けている場合が多いですが、これも断熱材の施工のしやすさや、断熱効果をより高くするための必要なテクニックです。
建築会社の特徴
構造用面材は強いと、外壁に構造用面材だけを配置する誤った認識をしている建築会社では、次のような特徴があります。
- 外壁にのみ耐力壁を配置し、それで足らない量だけを筋交いで埋め合わせする設計をしている
(合板と筋交いを併用している場合は、今までの説明のようなケースは少ない) - 相対的に耐力壁の量が少なく、基準法をクリアしている程度の設計が多い
といった要素が上げられますが、広告でこれを捜すことは難しいでしょう。
そして、なぜこのような会社が生まれるのでしょうか。(*6)
その理由は簡単です。自分たちで軸組工法と2X4工法とを比較していない。耐震等級での比較をしていない。この2つの検証をすればすぐにわかることなのに、メーカーの宣伝を信じきり、また、基準法をクリアさえしていれば地震には強いと錯覚し、耐震等級の制度や意味などの理解もしていないのかも知れませんね。
*6:大手ローコスト系FC等でも、このような傾向が強いところもあります。
「この建物は、構造用合板を多く使っていて、ひょっとしたら耐震等級3ぐらいの強さはあるかも知れませんね」というセールストークの図面を調べてみたら、基準法をクリアした程度の実力しか無かった。
ホントのようなセールストークを連発して顧客を煙に巻く無知な営業マンの言葉にはだまされないようにしましょう。
ちょこっとCOLUMN
広告の見方-その3
2X4工法と同じ構法ですよ。面で受けるから耐震性が強い。と言われてしまうと、ついつい本当だ。と思いこんでしまうのが人間ですが、比較をするとよくわかりますね。
構造用面材はたしかに筋交いよりもメリットが多いですが、万能ではありません。
その特性を知らずに盲信していると、広告とは裏腹な耐震性の低い建物になっているのです。
結局、「メーカー標準仕様の怪」で説明したのと同様に、ものは使いよう。設計する人(会社)次第なのです。
そして、工務店でさえ、構造用合板を使った建物は強いと盲信してしまっている人(会社)がいることもお忘れ無く。