ホールダウン金物は、建物の角に付けなくては・・と思っている方も多いと思いますが、それは正解でもあり、間違いでもあります。
ホールダウン金物に限らず、耐震金物というのは、柱が浮き上がるのを防止するために取り付けます。その原理はいたって簡単ですから、予備知識として知っておきましょう。
注:このページの説明はどちらかというと軸組工法限定です。
柱に加わる浮き上がり
建物に地震の揺れが加わると横から押されようとします。
そのとき、筋交いなどは浮き上がりの力が柱に加わります。それはちょうど下の図のように三角形の定規を立てて、横から押した状態と全く同じです。そして、耐力壁の反対側の柱は、浮き上がりと反対に土台に押さえ付けられようとする力が働きます。
でも、地震は交互に揺れますから、地震が起こっている間中、どちらの柱も浮き上がったり押さえ付けられたりしています。
この浮き上がりの力は筋交いなどの部材に顕著で、合板などを使った面材耐力壁では少し様子が違い、浮き上がりよりも、横滑りするような形の力が働くようです。 いずれの場合も、浮き上がりの力は耐力壁の強さに正比例しています。
つまり、強い耐力壁になるほど、柱に加わる浮き上がりの力は強いのです。
柱に伝わる建物の重さ
同時に柱は建物を支えています。建物イコール重さですね。つまり、柱にもたくさん重さを負担している柱と、そうでない柱があります。そのイメージを書いたのが下の右の図ですが、建物の角の柱はもっとも負担が少なく、反対に中央にあり、かつ、柱の間隔が開いている柱は大きな重さを負担しています。
ホールダウンは引き算で計算する
では、ホールダウンを含む耐震金物はどう計算しているのかというと、至って簡単で、その柱にかかる浮き上がりの力から、その柱が負担している建物の重さを引いて
プラス=浮き上がりの力が強ければ耐震金物をつけ
マイナス=建物の重さの方が重ければ、付けなくてもよい ということなのです。
では、実際問題、どの程度の浮き上がりが生じるのでしょうか。 計算では、下の図のような浮き上がりの力が、柱それぞれにかかると想定されています。
- 柱Aと柱Cは全く同じ組み合わせですが、建物の角にある柱Aには、2.3トンもの浮き上がりが生じると考えられているのに対して、柱Cでは、その半分以下の0.9トン程度です。 建物の角にある柱がいかに浮き上がりやすいかがわかると思います。
しかし、同じ建物の角にある柱でも、柱Aのように強い耐力壁の組み合わせに比べて、柱Jのように1階を少し弱い筋交いに変えると、浮き上がりの力も半減します。 耐力壁の組み合わせによっても、浮き上がりの力が大きく変化するのがわかると思います。 - 同様に、柱F.Gのように、いくら1階に強いたすき掛け筋交い(倍率4.0)をもってきても、2階に筋交いが無ければ、大きな浮き上がりは生じていませんね。 そして、マイナスで数字が書かれている柱は、柱にかかる浮き上がりの力よりも、柱にかかる建物自重の方が大きいために、浮き上がらない柱なのです。
このように、その柱に加わる浮き上がりの力は、筋交いなど耐力壁の配置された位置や、耐力壁の強さによって大きく変化するのです。
そして、1.0トンを超えるとホールダウン金物が必要ですから、この場合は建物の両側にある角の柱にホールダウン金物が必要になります。
注:この説明は軸組工法の筋交いを例として説明していますし、耐震金物がもっとも大事なのが軸組工法です。
■建物の角のホールダウン-昔の規定
以前の公庫仕様書では、「建物の角の柱にはホールダウン金物を入れましょう」という規定がありました。それは、建物の角の柱は柱の中でもっとも建物の重さを負担していない。つまり、もっとも浮き上がりやすいという条件が最初から備わっていたから、昔から建物の角にはホールダウンを入れておこうよ~、なんていうルールがあったのです。 しかし、今では、計算で全て求めますから、建物の角の柱であっても、耐力壁を設けていなければ、そもそも柱は浮き上がらないのでホールダウンも不要ですし、耐力壁の位置と強さでホールダウンは変化するのです。
つまり
ホールダウンは、柱が支えている建物の重さよりも浮き上がりの方が強く、
柱が浮き上がってしまう場所に入れる。
それは引き算で、今では計算できる。
だから、必ずしも建物の角に必要・・ということでもない。
そして、強い耐力壁になるほど、浮き上がりの力は激しい。
こんな関係です。
2X4工法
なお、2X4工法では、耐震等級2.3の計算をしない場合は、ホールダウンは全く設けなくてもかまいません。
それは、面材耐力壁なので筋交いのように浮き上がるというよりは、スライドするような動きをするので、ホールダウンが緩和されているという工法上の違いです。
注:2X4工法でも、耐震等級2または3を正式にチェックあるいは依頼する場合は、引き抜き力のチェックも行われます。