今回のテーマは、どの家でもありそうな問題点をクローズアップしてみましょう。それは、サイディングの外壁には必ず行われているシーリングの劣化が雨漏りを引き起こすという問題です。
事件の経緯と対処
築数年程度経ったある方から『1)台風の時”だけに”雨漏りがする。 2)強い風が吹くと建物が揺れる』という2つのご相談をいただき、現地に伺いました。
外壁はサイディングだったのですが、まずは雨漏りの原因特定のために外観チェックを行いました。
ポイントはサイディングの割れやシーリングの劣化などで隙間が生じ、そういった部分から雨が侵入しやすいので、シーリングの劣化、サイディングの割れなどがないか、という目視チェックをしましたが異常はありませんでした。
それではと、雨の侵入箇所を突き止めるために、雨が入りそうな場所に水道のホースで水をかけていきます。いわば雨を人工的に起こしてその場所を突き止めようとするのが次のステップです。
また、雨漏りというのは、必ずしも雨漏りがした場所の近くから漏水しているのではなく、遠くの場所で漏水したものが、柱や梁を伝わって全く違う場所に雨漏りとなって現れることも良くあります。
そのために今回も漏水を起こしそうな場所を広範囲にホースで水を勢いよくかけましたが、どこからも雨が漏ってきません。
これでは雨漏りの場所が特定出来ない、と思いつつ、もう一つの相談であった「強い風が吹くと建物が揺れる」という問題を調査していると、構造体に法規違反の工事があり、根本的に耐震性が基準法の半分程度になっていることが判明しました。
その原因は外壁に構造用合板を貼り、「構造用合板」で耐力壁とする工法だったのに、1)使っている釘が法規で規定されたものよりはるかに細い釘だったために強度が半分程度にしかならない。 2)合板を継いでいる部分に受け材がないため、法規が要求している適正な施工方法ではなく、これも強度が所定の半分になる状態 つまり、まったく耐力壁の施工方法を知らずに施工した状態であっため、結果としてその建物が有すべき耐震性や耐風性の半分程度の強度しか無く、そのために強風で建物が揺れていたのです。
是正方法として、外壁の構造用合板をすべて張り替えると言うことになり、雨漏りの原因は外壁サイディングを剥がすときに特定出来るだろう、と言うことで原因調査は見送りとなりました。
外壁を剥がしてみると
さて、いよいよ外壁を剥がす時が来ました。どうなっていたのでしょうか。
下の写真は、その時の写真ですが、サイディング外壁のどこかから雨が侵入し、通気用の胴縁を腐らせていました。(写真上)
さらに、バルコニーと壁が接する場所で比較的防水シートの施工不良になりやすい場所なのですが、この場所では、防水シートの裏にも水が廻り、建物の構造体を腐らせていたのです。(写真下)
さらには、下の写真のように防水シートの裏まで水がまわり、水が入り込んだ1階の柱は上から下まで腐り始めていたのです。その右側の構造用合板も半分程度腐り始めていました。柱については、ひどい部分で深さ3cm程度まで「ブヨブヨ」とした状態になっているところもあり、これも剥がしてみなければ絶対に分からなかったことだったのです。
言い換えれば、耐力壁の施工不良があったらからこそ外壁を剥がしたのですが、単なる雨漏り、しかも台風時だけの雨漏りだったので、もしそれだけであれば、ここまでの確認はしなかったでしょう。不幸中の幸いとも言うべき出来事でした。
なぜ、雨が入ったのか??
一般的にシーリングの劣化とは下の写真のような状態を指します。
シーリングは一種の柔らかいゴムと考えれば良く、Aの状態はそのゴムが劣化してひび割れを起こしちぎれそうになっています。Bも同様ですが、少し状態はひどいです。Cの状態はサイディングの片側で完全に切れています(くっついていない)。Dは、Cまで行っていない途中の段階です。
いずれも、この状態では確実に雨は内部に入っています。
注:雨はわずか1mmの隙間でも入っていきます。
しかし、この建物の場合、当初の外観チェックの時には、築10年にも経っていないためサイディングの割れもなく、サイディング同士の隙間を埋めているシーリングにも劣化の兆候も割れも全くありませんでした。
では、なぜ雨が入ったのでしょうか。考えられる理由は次の通りです。
雨が入っていたのはいずれも建物の角です。この部分は図のように建物の角にサイディングのコーナー材が取りつけられており、その横がふつうの横張サイディングです。そして、建物の向かい側は遮蔽物のない地形でしたから、風が建物にまともに吹き付けていました。
台風時の強風では、サイディングが『たわみ』を繰り返す状態となり、そのときに、サイディングに施工されていたシーリングの接着不良によって、『たわみ時』に隙間が生じ、そこから雨が入っていたものと考えられます。
そしてゴム状のシーリングは強風が収まると、元のさやに収まるように、サイディングにぴったりとくっついている形に見えたのだろうと思います。
もちろん、これ以外にも原因はあるのかも知れませんが、いずれにしても、外観では分からないうちに雨漏りが進行し、知らずに柱が腐っていっていた、という怖い現象だったのです。そして、防水シートの施工不良がそれに追い打ちをかけて腐朽が進行していった、ということなのです。
言い換えれば、防水シートが完全な施工であれば、シーリングの接着不良によって、サイディングの裏側に水がまわったとしても、通気胴縁を腐らすだけで済んでいたと考えられるのです。(注1)
そういう意味では、サイディング、シーリング工事ともおろそかに出来ない工事であることはもちろんなのですが、サイディングの工事は、サイディングがあり、シーリングもするのだからという安心感からか、案外に『防水シートの施工がいい加減な施工』が多く、 防水シートは構造体に対する最後の砦という認識に欠けている業者がまだまだ多く存在しています。
シーリングの劣化には要注意。
- 写真A.B.C.Dの劣化状態は確実に雨が入っていると考えよう
- 表面的な劣化が無くても、この建物のように接着不良もある(注2)(注:劣化と異なり、接着不良は目視でも通水テストでも分かりにくい)
- 仮にシーリングの劣化あるいは不良で雨が入ってもやむを得ないが、それでも防水シートは最後の砦
雨漏りは起こってみないと分からないのです。
そして、それを知るのは築数年以上も経たあとです。
そのとき
工事をした当事者(現場監督や職人)は誰も残っていない。
どんな工事であったかなど誰も分からない。
雨漏りがあるまで誰も気づかない。
意図的な手抜き工事でなくても、チョットした手抜きがあとあと大変な影響を与えるのが外壁工事なのです。
たかがサイディング、たかがシーリング、たかが防水シートと侮るなかれ。と言うことでしょうね。今回の教訓は。。。
サイディング工事は、建築会社、工務店などの住宅会社からサイディング屋などと呼ばれる一つの専門工事会社に一括して外注されますが、実際の工事は、防水シートを張る職人、サイディングを取りつける職人、シーリングを施工する職人、と工事をする職人はすべて違う職人が別々に行っている場合が多く、その中で一人でもいい加減な職人がいると雨漏りは起こりやすくなるのです。
注1:通気胴縁はサイディングを保持しているため、通気胴縁が腐ると、サイディングがグラグラの支持されていない状態になるため、危険です。
注2:シーリングの接着不良は、サイディング面の汚れや雨の後のサイディング面が濡れているときなどに起こります。
シーリング
シーリング工事は、右図のように厚み12mm程度のサイディングであればわずかに数ミリ程度の厚みの中でシーリングを入れて、かつ、耐久性と弾性効果が発揮出来るための厚みも6mm程度必要です。
デザイン的に凸凹のあるサイディングなどは厚みの確保も『職人の腕』といった部分が必要になって来ますから、簡単なようで、どんな世界でも「熟練さ」は必要なのです。
ちなみにシーリングは「バックアップ金物」にはくっつていてない(接着していない)。シーリングがくっついているのは両側のサイディングだけです。
これを二面接着と言い、このために地震や台風時にサイディングが動いても、ゴムのように伸縮出来るシーリングによって、その動きに追従し、隙間が開かないのです。
そして地震や台風が過ぎ去れば、最初の形に戻っているのです。
雨漏りの保証
平成12年以降に建てられた建物の雨漏りの保証は、品確法により引渡から10年となっています。それまでに売り主あるいは建築会社が倒産していない場合は、その会社が直す法律上の義務があります。また、売り主あるいは建築会社などが倒産している場合でも、(財)住宅保証機構やJIO等の保証会社の保証がある場合は、その会社に直すことを請求出来ます。売り主等が倒産しており、保証会社にも入っていない場合や平成12年以前に建てられた建物は自費で直す必要があります。
シーリングの耐用年数
一般的なシーリングの耐用年数は10年以上と考えていいです。しかし、今回ご紹介したケースのように強風が当たる場所、紫外線が強く当たる西日の射す場所、微細な施工不良などによっては、もっと早い段階からシーリングの劣化などが始まる場合も数多く見受けられます。
反対に、完成から15年を経ても、問題のないシーリングも数多くあります。
つまり、シーリングは一様に寿命を特定出来るものではありませんが、一般論を言えば10年持つと言うことです。
しかし、どんなに環境が良く、施工状態が良くても20年も劣化もせずに持ち続けると言うことはあり得ないと考え、サイディングなどシーリングを使った建物では、ときどきの点検は不可欠となります。
知らずに忍び寄る危機