誤解・床のたわみ

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話というものは、重なってくるもので、たまたま3人の方から床が下がっている(たわんでいる)というお話しを伺いました。

いずれも構造的には問題のないものなのですが、よく話を整理すると2つの視点で物事を見なければ、その善し悪しを判断出来ないことが、この手のトラブルを生んでいるようです。

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床が真ん中に向かって下がっている。問題施工では・・・

【共通項】

3つの話の共通項は、いずれも部屋の中央に向かって、床が下がっている、問題施工ではないのか。というものでした。部屋の広さにより、下がり方はいろいろですが、ある方は6帖程度の部屋で中央に6mm程度下がり、ある方は8帖程度の幅の部屋で8mm程度下がっている、といった状態です。

構造的な基準はどうなっているのか

では、そもそも床を作るときの基準、構造的な基準はどうなっているのでしょうか。

たわみ量の構造基準

部材などの構造計算をするときの構造基準では、これだけの重さが加わった時に、材料がたわむ量をどの程度にすべきかの基準が設けられています。
たわみというのは、 材料に重さが加わったときにひずむ量の事で、右図の変位をたわみといい、その大きさをたわみ量と呼んでいます。
その規定(構造基準)では、最大のたわみ量を その部材の長さの1/300以下にしなさい。と規定されています。(床の小梁)
これを6帖の部屋の大きさに置き換えると、6帖の部屋の短辺の長さはおおよそ2.7mですから、この長さの1/300、すなわち9mmまでが材料がたわんでも良い制限値とされていますし、8畳間などでは、短辺は3.6m程度になりますから、たわみ量は12mmまで許容されています。

言い換えれば、3.64mの長さがあれば、その中央で12mm下がっても構造的には問題がない、というのが構造計算で示されている基準なのです。

たわみ量の性能表示基準

一方、構造基準とは別に性能表示制度では、瑕疵の基準を定めており、その規定では、床のたわみ量は右表のように、3/1000未満のたわみ量であれば、「瑕疵の可能性が一定限度存在する」と書かれています。
一定限度と言う曖昧な表現を用いているのは、すべてのたわみや不陸(ふりく:水平でなく凸凹のこと)がすべて構造的な問題がある、とは言い切れないからです。
これも6帖の部屋の長辺3.64mに置き換えると11mmという事になります。

注:この規定には、 ただし書きがあり、3m未満の長さで計測した傾きは対象外と書かれています。これは、あまり短い距離(3m未満)の傾きは構造的な問題ではなく、施工精度(工事の腕前)の問題が多いという理由で除外されています。

現実の基準

しかし、実際には構造基準で設計をしてしまうとどうしても床がたわんだように(さがったように)感じるおそれがあり、実際上は1/400から1/800程度のたわみ量で計算を行っています。
また、実際にはいくらこのような構造基準や瑕疵基準が設けられていて、多少の床の下がりは問題が無いのだと言ったところで、床が下がっているという感覚を誰もが不安に思うため、軸組工法で用いる梁や根太という構造部材も、2X4工法で用いられる床根太材等の部材も、必要以上に太いものが使われ、「床が下がっている。欠陥だ!」というクレームが起きない配慮がされているのが現実です。

社会通念という視点(仕事の出来不出来)

冒頭の話のように、多くの人は、ただ、盲目的に『床が下がっているのはおかしい』と感じ、それが問題工事ではないのか、という疑問を必ずと言っていいほど持ってしまいます。

しかし、上で説明したとおり、下がっていることがすぐに構造的な問題があるとか、あるいは性能表示制度で言う瑕疵にはつながらない。ということを理解しておく必要があります。

つまり、床下がりの問題は、構造的に大丈夫なのか。という側面と、感覚的に床が凸凹している建物は良い建物なのか、といった仕事の出来不出来の問題の2つに分けて考えておく必要があるのです。

後者の問題は、床がどの程度まで下がっていると許容出来ない問題か、ということで、その目安が多く集まると社会的コンセンサスとなり、その目安は社会通念という言葉に置き換えられます。

床が○mmも下がるのはおかしい、という事が大多数の意見の場合、それが社会的コンセンサスとなり、社会通念となれば、それは民法の概念で言う社会通念から逸脱した状態であり、是正が必要なもの、ということになります。

しかし、残念なことは、これらコンセンサスや社会通念には明確な基準がありません。そのため、これら社会通念の判断は、人によって感覚的な差が生じやすく、法的な規定値が無い以上、裁判にも馴染みにくく、当事者同士(施主と請負者)の話し合いによってしか解決出来ない問題となりやすいのです。


改めて言うと、床が下がっている、という問題は、明確に構造基準などから判断出来る問題と、そうではなく社会通念上の概念(仕事の出来不出来)から判断しなければならない問題の2つがあるのです。

そして、多くの方は後者の社会通念上、床が下がっているのはおかしい・・無意識にと感じ、それが同時に、構造的に大丈夫な建物なのか、という前者の問題にまで想像を膨らませているのがトラブルの原因なのです。

後者の問題は構造的ないわば建物の危機に直結するような大問題ではなく、むしろ、良い腕の大工、悪い腕の大工といわれるような抽象的でとらえどころのない評価の下しにくい問題です。

その上で、前者(構造的原因によるたわみ)が現実なら、早急な対処が必要になりますが、後者の腕の善し悪しに類するようなことが原因の場合は、地道な相手との交渉しか解決の手段はありません。

対処法

これまでの説明は、多少のたわみや不陸を我慢しろ、といっているのではありません。当サイトの「中古住宅・建物診断サービス」でも、中古住宅の床のたわみや不陸を計測しても、優良な中古住宅では床の不陸は建物全体で計測しても2~3mm程度、個々の部屋内の床の傾きも同様の傾きまでにとどまっています。
やや程度が悪い(平易な表現として大工の腕が悪そうな)中古住宅という建物では、建物全体の不陸や、部分的な不陸や傾きは5~6mm程度です。

そういう意味で、1つの部屋で5~6mm以上の傾きは、大きなものと言えます。

しかし、構造的な問題で発生しているわけではないので、後は当事者同士の話し合いでの解決を望むしかありません。

そしてこういう場合、相手(施工者)との交渉でやってはいけないことは、「相手を責めること」です。
途中の説明のように、何か構造的な問題があるのではないかという不安が先に立ち、ついつい感情的に「構造的に何か隠れた問題があるのだ」あるいは「あなたの監理が悪いからこうなったのだ」「腕の悪い大工を使ったからだ」「わざとできの悪い職人をよこしたのだ」といった表現で相手の非を責める人が多いですが、これは逆効果で、相手を頑なにさせる事の方が多く、感情的になったあなたと頑なになった相手が話し合えば、合意出来る場面はどんどん遠のいていきます。

交渉の大原則は、相手が『はい』と言わざるを得ない質問をすることなのです。
相手(施工者)の社員も、立場上会社の代表という立場で出来ている以上、「腕の悪い大工を使ったからだ」と言われて『はい。そうです』と答える人はいませんね。
上の4つの詰問はすべて素直に『はい』とは言えない質問です。

それよりもやんわりと、「これだけ傾きがあると仕事してはチョット恥ずかしいね」「あなたのお住まいならどうですか」といった心情に訴えかけるようなソフト路線で迫る方が効果的な場合が多いです。

ただし、はなから床の傾きなど意にも介さない不遜な業者には何を言っても無駄ですから、その点は交渉である以上、相手次第なのですが。。。。


いろいろあります。はい!!

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