マンションなど大きな建物は傾いていないのに、なぜ、住宅だけ傾くのだ?
住宅で基本的な液状化対策が出来ない最大の理由は、前回の話ではなく、この部分です。
そして、この疑問に対する答えは、杭に対する考え方の違い、というよりも法律的な違いにあります。 大型建物では、液状化が起こる可能性のある地盤に杭を用いる場合は、「液状化に対しての検討」が求められています。簡単に言えば「液状化しても大丈夫な杭を使え」という法律の規定があります。
大型建物と住宅の杭の違い
杭の種類、支持杭と摩擦杭
杭には支持杭と摩擦杭という2つの方式があり、支持杭は強固な地盤の支持だけを頼りに支える方法。
摩擦杭は杭の周囲の土との摩擦で支える方法です。
大型建物は、液状化に影響されない支持杭
ところが、液状化が起こると廻りは水で満たされますから、杭と土の摩擦で支える摩擦杭の効果は全く期待できなくなります。
そのため、大型建物では支持杭だけで支える必要があります。
言い換えれば、大型建物では液状化に左右されない杭を使っているということなのです。
また、大型機械も入れることが出来、杭工事だけで数百万円、数千万円の費用を負担しても、法律がそうなっている以上、建てるならそうしなければ建てられません。
柱状改良杭の弱点=液状化で杭耐力の半減
ところが、住宅にはそういう規定はありませんから、ほとんどが柱状改良杭が用いられます。
これは法律上の問題だけでなく、コストも関係しています。柱状改良杭が一番安いですから。
しかし、この柱状改良杭は摩擦と支持を併用した杭で、地盤にもよりますが、半分以上が摩擦で支えられている状態になっています。
そうなると、いったん液状化が起こると、摩擦の効果は期待できないため、杭の建物を支える強さ=支持力は半分以下に低下してしまいます。
注:柱状改良杭の安全率は、計算上の3倍も取っているため、液状化が起こったから直ちに危険というものではありません。
この杭の考え方や法体系が、大型建物と住宅で決定的に違うために大型建物液状化が生じても不同沈下が起こりにくい。住宅は起こりやすいという傾向になるのです。(それでも大型建物の不同沈下が皆無ではありません)
小口径鋼管杭
柱状改良杭以外に住宅用に小口径鋼管杭というものがあります。
この方法は強固な支持層に直接杭を打ち、支える方法なので液状化対策には良いのですが、正確な支持層を確認するために原則としてボーリング調査が必要(15万円程度)、杭径の100倍の深さまでしか出来ないため、支持地盤が10mを超えて深いと使えない。
柱状改良杭よりも工事費は高くなるといったデメリットもあるため、ほとんど使われていないのが現実です。
また、仮に数メートルで支持層があっても、その支持層が弱ければ、杭の本数を増やすと言った対処も必要になってきます。
仮に杭だけで支えるとしても強い支持地盤が必要
液状化が起こったときに柱状改良杭の摩擦を期待せず、固い地盤の支持だけで支えられるように・・と仮定すると、上の計算のように、地耐力11トン/m2以上の強い支持地盤が無い限り、柱状改良杭だけでは支えられないという計算になります。(注:極めてざくっとした計算です)
現実の世界
でもなかなかそう都合の良い地盤って無いんですよね。
液状化の起こる海沿いはそもそも砂が堆積した地層です。
マンションなどの大型建物では杭を20mの深さまで打つ、つというのもざらにある話です。
そして何より、「えっ、液状化対策に200万円もかかるの~」「それでも絶対とは言えないの」「支持層が深いの~。杭が届かない」なんてことになったら、住宅を建てる意欲もなくなってしまいますね。