東日本大震災では、浦安市の液状化現象が関東地区の大きな被害として注目を集めました。
東京電機大学理工学部の安田進教授は、その浦安市を歩いてまわり、地上に憤砂があるかどうかで液状化が起こったかどうかをチェックして回られました。
下の図の通り、川を境とした北西側の地盤では液状化は起こっていない。この土地は1945年以前からの土地だそうです。
そして、川の東南側の住宅地(赤色)で憤砂が顕著で、いくつもの報道でもあるように液状化が起こっています。 さらにその海沿いの工業地域やディズニーランド(黄色)ではそれほどの被害が出ていないそうです。
それをまとめたものが下の図です。(日経BP社・ケンプラッツよりこちらで加工したもの)
住宅地は1968年以前に埋め立てられ、ディズニーランドは1970年。より海側の工業地域は1970年以降の埋立のようです。
なぜ被害が異なるのか?
どうして住宅地に液状化の被害が大きく出たのでしょうか。
ただ、液状化自体は、私が工業高校・土木科で学んでいたとき、すでに言葉として存在していましたし、その対策も複数あったのです。つまり、事象も対策もすでに40年以上も前に考えられていた。
そんな以前から液状化という現象もわかっており、その対策もわかっていたのにどうして液状化が起こり、なおかつ、おなじ埋立地なのに被害が違うのか。
ここで2つの疑問がわいてきます。
- なぜ、住宅地では道路から砂が吹き出す憤砂が見られ、他の埋立地であまり見られないのか。
- なぜ、住宅が傾くのに、他の大きな建物は傾かないのか。
この問題、実は非常に簡単で、経済原理に密接に関係する話なのです。
経済原理と液状化被害の相関関係
古来、液状化対策には、砂の地盤自体を締め固めて強くするサンドコンパクション工法やバイブフローテーション工法というものが開発されています。
また、地盤の水位を下げたり、水分を抜くことで液状化3条件の水を排する工法として、ウェルポイント工法・ディープウェル工法というものがあります。
これらは40年以上前から工法として存在し、いずれも大型の機械を用いて、大規模に行う必要があるため、要は多額の費用がかかります。
注:いずれも建物に対してではなく、地盤に対しての工法です。
上の大学の先生の調査方法は憤砂ですが、住宅地の道路や敷地が大きく被害を受けたのいくつもの報道の通りです。それに対してディズニーランドや南東部の工業地域の道路や地盤に大きな液状化の被害が表れなかったと書きました。
その理由は、前者の地盤(住宅地)がコストをかけた液状化対策をあまりしていなかったのに対して、後者は、十分な費用をかけて液状化対策をしてきたことが、被害を大きく分けた原因だろうと考えられます。
注:地盤全体に対しての対策です。建物に対しての話ではありません。
たとえば、住宅地では、埋立造成自体に多額の費用がかかります。そこに、さらに液状化対策に費用を上積みして坪単価を上げてしまうと、売りにくくなってしまう。まして、いくら多額の費用をかけて液状化対策をして、それをアピールしても、少なくとも東日本大震災以前では、そんなことに注意を払う消費者自体がいなかったでしょう。(もちろん、そういうことに注意を払う売り手もいなかったでしょう)
それに対して、ディズニーランドや工業地域では、万が一液状化で地盤に被害が出れば、その復旧、休業による損失など多額の損失を自ら負担しなければならないために、建物を建てる前に液状化対策を万全に行う。
このような取り組みの差が大きく被害の明暗を分けたのではないかと考えられます。
つまり、前者は売り手(造成・開発業者)がコストアップを嫌い、地盤としての真剣な液状化対策は考えなかった。
後者は、万が一を考え、地盤としての液状化対策を行った。 といった取り組みの違いが表れたのかもしれません。