今日はある人にとっては、とってもショッキングな事をお話ししていきます。それは、建物の軒の出のお話し。
最近、ある資料を手にしたときに、建物の軒の出によって、どの程度外壁に雨が当たるのかを計算しているデータを見つけました。
軒の出と外壁の雨の当たり具合
右がそのグラフなのですが、軒の出が60cmある建物では、地面から1mのところで、年間50時間程度、外壁に雨がかかる(A点)という計算になる。そして、
軒の出が15cm程度の場合、なんと地面から3m以下の部分は、延べ100時間近く外壁が雨に濡れているようなのです。(B点)
注:東京都・北面・1996年の雨量よりの計測
最近は上の写真のようなビル風の外観をもったモダンなデザインの住宅が多くなっています。それは、住宅地の過密化で軒の出も取れなくなった、という事情もありますが、そうでない場所でも、このようなビル風のデザインが好まれ、多用されています。
でも、このモダンな外観も、木造住宅にとっては寿命を縮めるデザイン以外の何者でもありません。
左の写真は、軒の出が短く、雨で外壁が変色してしまった住宅です。特に左の住宅を見ると、雨が当たりにくい「軒の出の直下」や「窓下」は外壁が白いのに、その下は黒く変色してしまっています。
木造か、そうでないか
そもそも、下のイラスト(右側)のようなデザインは、屋根を作らない、あるいは作る必要のないビルに多く見られるデザインなのですが、そこには住宅と決定的な違いがあるのを、設計者もこれを売り込むデザイナーも、住宅会社の誰もが避けて語らないある問題があります。
それは、構造体の違いです。
ビルのほとんどは鉄筋コンクリート造であったり、鉄骨造なのですが、住宅のほとんどは木造です。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造は、足下がどれだけ濡れようが、それだけで構造体の中に湿気が入り、影響を与える訳ではありません。特に鉄筋コンクリート造などは、雨が当たろうがへのカッパです。
しかし、木造住宅はそうはいきません。外壁がずっと濡れている・・と言うことは、その影響で、構造体、すなわち壁の中の木材がいつも湿気た状態、あるいは湿気やすい状態になっているのです。木材に湿気は大敵です。
つまり、鉄筋コンクリート造や鉄骨造であれば、何も問題のない外壁の濡れであっても、木材が構造体である木造住宅では、外壁が長時間濡れることで生じる湿気は建物の耐久性に致命的なダメージを与えかねません。
シーリング体積の違い ビルの25%以下(劣化を早めるだけ )
もう一つの問題があります。
それはサイディングやガルバニューム鋼板に使われシーリングの厚みです。
ビルやマンションで使われるシーリングは、幅15mm、厚みが10mm程度あるのに、住宅のそれは、幅が10mm程度、厚みに至っては6mm程度もありません。(右図)
体積を比較すれば、住宅で使われているシーリングの体積は、ビルやマンションで使われているシーリング体積のわずかに25%程度にしかなりません。
しかし、使われているシーリング材料自体はビル用も住宅用も同じです。
そうすると体積が小さいほど、自明のことですね。
このようなシーリングの体積の違いも知らずに、ビル風外観を追い求めるのは、建築技術を知らない危険な行為です。
こうなる原因は、住宅を設計する設計者や施工者がビルやマンションなどの一般建築を知らないと言うことに尽きます。
おなじ「建築」という分野でありながら、一般建築の世界と住宅の世界の業界間の交流はありませんので、自分の世界の技術だけしか知らないのです。
外観はスッキリ。
でも、足もとは雨が降ればいつも水浸し。
足の中まで湿気てる・・ということを想像しながらモダンなデザインを指向されているのでしょうか。
このデータを見てしまうと、そういう感を深くしてしまいます。
格好の良いデザイン性だけを強調し、デメリットを絶対に言わないこのスタイル。
チョット考えさせられるデータです。