見抜けなかった液状化
ある研究者の方が、2007年新潟中越地震で液状化被害に見舞われた住宅を調査しました。
この宅地は憤砂が生じ、建物周囲の宅地は宅地中央部にすり鉢状に40cm程度沈下し、建物は布基礎に長さ4mの柱状改良杭で固めていたものの50mmの不同沈下を記録しました。 そして、その後3種類の地盤調査と土質調査、粒度測定等をして液状化の原因などを調べています。
図の左表は、この建物をSS式調査で地盤調査したときの結果です。
これを見る限りでは、最初から地耐力3トン/m2程度ある比較的良い地盤であり、下に向かってどんどん地耐力が強くなっています。
報告書では支持力増加と不同沈下抑止を目的として柱状改良杭を設けたと書かれていますから、布基礎としてはギリギリの地耐力だったので、安全側に考えて地盤補強をしたのでしょう。
少なくとも、当時も今も、ボーリング調査まで行って地盤調査をする住宅は皆無に近いですし、今でもこのSS式調査の、下に向かうほど強くなっている調査結果を見れば、ほとんどの人が地盤補強すら不要、あるいは今回のように3~4m程度の地盤補強で『十分』と考えたでしょうね。
私もそう考えます。
その後、地震で液状化が起こり、ボーリング調査(右が)で初めて「礫混じり粗砂」や「砂」という液状化層であることがわかりました。地下水位もその層の中にあります。
少なくともこの調査で言えることは、 スウェーデン式サウンディング地盤調査では、地耐力だけしかわからず、液状化を見抜くことは不可能である。という事実です。
強すぎる薄皮一枚。その下は分からない。
下の図は、日経ホームビルダーの記事に載っていたSS式地盤調査のデータです。
左が東日本大震災の前に行った地盤調査。
地面から浅いところで貫入不能となり、強い地盤だと言うことで工事が進められました。
しかし、今回の地震で不同沈下を起こし、その後に再調査したのが右の図です。
もともと強い地盤と思っていたものが、実は薄皮一枚あるだけで、その下は極めて軟弱な地盤が続いていることが分かりました。
地震の揺れによって強いと思われていた地盤が割れ、不同沈下が起こったようなのです。
実は、このような地盤調査書に年に数回お目にかかります。
すべてがそうではないでしょうが、このような薄皮一枚だけがまるで皮のように硬い。だからSS式調査では貫入不能になってしまうのですが、しかし、その下が本当に強いままなのか、この地盤のように軟弱地盤が隠されているのか、SS式調査の限界を感じる地盤があるんですねぇ。
注:このような浅いところで貫入不能になった地盤の場合、その原因がガラや大きな自然石(天石-てんせき)などが原因であることも考えられるので、現地の調査員は必ず貫入不能になった地点から少し離れた場所で再調査を行いますが、それでも薄皮部分の地層が強すぎて再び貫入不能となり、その下に軟弱地盤が隠されていることに気づかない場合もあるようです。
このあたりはSS式調査の一つの限界例です。
腐植土はわからない
建物が、17/1000程度と大きく傾き、とても住めない状態にまでなった住宅に伺いました。
不同沈下の原因は約4.5mの厚みのある『腐植土層』だったのですが、これは園芸などをしている人ならわかりますが、葉っぱが腐ったものが堆積した地層で、フカフカです。地耐力は全く無く、杭を打ち込んでも全く効きません。
ところが、SS式では、この地層の発見は出来ません。
右の図は、上2枚がスウェーデン式地盤調査(SS式調査)を行ったもので、下がボーリング調査のものです。
そして、一番下の図は、そのときにSS式式調査の試験結果、診断ですが、立派に地形分類図を並べていながら、「台地・丘陵地と谷の境」という訳のわからないコメントを書いています。
そして、「主たる土質は粘性土である」と書いていますが、『腐植土』などとどこにも書かれていません。
ただ、軟弱で不安定な地盤だと書かれているだけです。
もったいぶって長々と書いていますが、中身は何もありませんし、不同沈下の原因となる腐植土層を見破ることも出来ませんでした。
ところが、ボーリング調査をしてみると表面から2.25mまでは関東ローム層で、いわゆる強いと言われている地盤なのですが、その下には4.5mの厚みで『腐植土層』が続いています。
結局、この『腐植土層』のために、建物が大きく不同沈下したのですが、一般的な住宅で用いられているSS式調査でも、あるいは表面探査法のいずれも、『腐植土層』は、見つけられないし、ましてや「地形分類図」をみたところで、『腐植土層』は書かれていないのです。
住宅程度の・・・といってしまえば怒られそうですが、ほとんどの建築主も業者も、住宅に1カ所15万円もするボーリング調査をする、という発想にはなかなかなりません。
でも、そんなことをしなくても、いざというときの備えは、「地盤保証」にあることをお忘れ無く。
まだまだ人間は自然を超えることは出来ないのですから・・。